『崖っぷちの男』

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【ストーリー】
無実の罪で投獄された元警官が、身の潔白を奇想天外な方法で証明する。
第一幕:オープニング〜キャシディの逃亡
第二幕:マーサーの登場〜ダイアの奪取
第三幕:警官隊の突入〜ラストまで


【見所】
サム・ワーシントンルパン三世もビックリなダイア強奪に挑む。
そりゃ無理だろ!
という疑念がどこで解消するかが見所。


【感想】
ハリウッドの面白いサスペンスを観た! という感じ。


監督はアスガー・レスという人。新人監督らしいけれども、映画を観るかぎりでは、映像に対するこだわりはあまりなさそうな気がした。ニコラス・ウィンディング・レフン監督の『ブロンソン』や、トーマス・アルフレッドソン監督の『裏切りのサーカス』を観ていたので、カメラワークについてはオーソドックスすぎて、新人監督らしい才気が感じられないところが逆に目に付いた。でも、話の作り方は上手くて、最近急逝したデイビッド・エリスの正統後継者になれるかもしれない。


映像は特に観るべきものはないけれども、物語の展開はサスペンスとしての勘所が分かった作りになっている。この映画はおそらく『交渉人』に強い影響を受けていると思った。二転三転する物語に、ビルの外に立つキャシディ自身のサスペンスと、ダイアを強奪できるかどうかのスリル、そして警察内部の真犯人が誰かを巡るミステリーが絡み合って上質なストーリーを構成していて、これが「日本よ、これがハリウッドの保守本流ストーリーテリングだ」と言われているようだった。この映画、たぶんハリウッドの撮り溜めている映像アーカイブを使って、かなり金と手間の節約をしているような気がする(警察が非常線を張るシーンとか、空を見上げる群衆とか)し、工夫が随所に観られるところも良かった。


役者はそれぞれが自分の役所をちゃんと演じていて、最初「どうかなー」と思ったサム・ワーシントンは、あんな緻密な計画を実行に移せるような男にはどうしても見えないけれども、ちゃんと様になっていた。最後にビルの屋上からジャンプするのはどうかと思ったけれど。ドナルド・トランプみたいなダイアモンド王を演じたエド・ハリスは、ちょっと観ない間にゲッソリ痩せていてビックリした。でも、ふてぶてしい悪役は、エド・ハリスが演じることで重石となって、ストーリーに厚みをもたらしていると思う。あと、客室係のあっと驚く正体とか。


あそこまでして無罪を勝ち取ったわけだけれど、だからといって全部の罪が許されるわけじゃないよね……(序盤の列車事故とかの賠償とかどうするんだろ?)と思ったけれども、映画的に「終わりよければ全て良し」な感じでまとまっているので観ている側も気になるほどでもない。最後に宴会で終わるのも良かった。ライムスター宇多丸師匠の、「打ち上げが重要」という映画に、『崖っぷちの男』も加わっただろうと思う。


難点を言えば、交渉人マーサーを演じたエリザベス・バンクスがアホにしか見えないということ。もうちょっと凄腕交渉人のテクニックを見せる部分があっても良かったのでは? そうなると、凄腕交渉人を出し抜くサム・ワーシントンというもっとありえない物語になったかもなぁ。あと、警察内部の真犯人についてはもうちょっと分かりやすいミスリードなり、説明なりがあっても良かったと思う。警察内部に裏切り者がいるという描写を冒頭に持ってくるとか、いろいろ語り方はあると思うんだけれどね。おかげで、誰が裏切り者でもいい話になってしまった。それに、アッカーマンもなにがしたいのかイマイチだし。


でも、全体的にはハラハラさせてくれる映画であることは確か。この映画は100分くらいの話なんだよね。テレビで放映するのに丁度いい尺と言える。