『裏切りのサーカス』

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裏切りのサーカス コレクターズ・エディション [DVD]

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【ストーリー】
冷戦下のイギリスの諜報部「サーカス」で、ソ連の二重スパイを暴く。
第一幕:オープニング〜レイコンから裏切り者の捜査依頼を受ける
第二幕:捜査アジトを作る〜エスタヘイスを尋問する
第三幕:ポリヤコフのアジトに乗り込む〜ラスト


【見所】
ザ・オヤジ映画。
オッサンが好きな腐女子が観れば悶え死ぬ布陣だと思う。あと、トム・ハーディは本当にカメレオン俳優だなぁ。


【感想】
超上質なスパイ映画だった。ウィスキーをロックで飲みながら観たいと思った。


MI6を舞台にしている映画といえば007なんだけれども、この映画の場合は派手なドンパチは全然ないし、ゲイリー・オールドマンをはじめとしたおっさんが、深刻な顔をしたり面の皮の厚い演技をしたりを楽しむものになっている。組織の中の裏切り者を暴く、というかなり地味なストーリーなのに、スリリングな雰囲気は決して007映画に劣るものではないと思う。


監督はトーマス・アルフレッドソンスウェーデン人で、『ぼくのエリ 200歳の少女』で一躍有名になった。僕はこの人の映画を観るのは今回がはじめてだったけれども、なるほどこれは才能あるな〜と感じさせるものがビンビンに伝わった。北欧出身の映画監督といえば『ブロンソン』『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフン監督もそうで、映像に対するこだわりが北欧の映画監督の特徴なのかなぁと思わせるものがあった。オープニングからロゴの出るタイミングとか超かっこいい。


「日本よ、これが『絵作り』だ!」と言われているような気分になるほど、とにかくカメラワークが美しい。動きがない地味な物語なんだけれど、ズームやピント合わせを多用した絵作りが超スタイリッシュで、しかもそこで動くのが一癖も二癖もある英国諜報員という、スタイリッシュにスタイリッシュを上乗せして、しかも演技巧者がそろっているとあって、「うわー、たまらんわー」と身悶えしてしまった。サーカスの幹部連中もいいし、若手のギラムを演じたベネディクト・カンバーバッチと、リッキー・ターを演じたトム・ハーディも良かった。



ヘイドンとプリドーのホモセクシャル感ありありの関係も良かったし、スマイリーの妻を寝取られてインポになったっぽい顔も見所の一つ。予告編を観ても分かるように、全員顔面圧力が強い。特にアレリン役のコリン・ファースと、ブランド役のキーラン・ハインズ! キーラン・ハインズなんてストーリー上、特になにもしていないのに、顔面圧力だけで強い印象を残している。ハリウッドの竹内力か! と言いたくなるほど。


ストーリーは裏切り者を探すというものだけに、関係者全員があんまり幸せにならない。ただ、スマイリーだけは「失ったものが2つとも取り戻せて良かったね」な終わり方をしている。イリーナがあんな死に方をしたのに、彼女を純粋に思い続けているターが悲しかった。あと、後任として頑張っていたのにソ連の策略にまんまとしてやられたアレリンの、とぼとぼ歩く姿とか。ただ、ミステリーとして期待すると、正直なところ肩すかしを食らうかも。意外性みたいなものはないんだよね〜この話に。誰が裏切り者でもいい感じ。それよりも、スパイの業を描くみたいな部分に主軸が置かれている。


「昔は良かったね」というパーティーの回想シーンが、黄金時代の終わりを告げるものになっていて、誇りを失ってしまったスパイたちの落日が味わい深い。オヤジ映画の金字塔。観て損はない映画だと思う。