『ドライヴ』

レンタルで鑑賞。


ドライヴ [Blu-ray]

ドライヴ [Blu-ray]


【ストーリー】
昼はスタントマン、夜は逃がし屋の男が、偶然であった女のためにマフィアの抗争に巻き込まれる。
第一幕:オープニング〜アイリーンとの夕日のドライブ
第二幕:夫の出所〜ニーノ殺害
第三幕:バーニーとの電話〜ラスト


【見所】
車を運転する陶酔感。それを表現するカメラワーク!
まさに『ドライヴ』の名前に相応しい。


【感想】
凄い凄いと聞いていた、ニコラス・ウィンディング・レフン監督のバイオレンス映画をようやく鑑賞。この映画でカンヌ映画祭の監督賞を受賞しているだけあって、圧巻の一本だった。


80年代っぽいテイストの音楽が全編に渡って流れ、しかも映像も主役のライアン・ゴスリングもどこか昔を感じさせるものになっている。でも、この一歩間違えればダサいところが、逆にカッコイイ! 21世紀のこの世の中に、こんなに「古くさい」男の世界が、ロサンゼルスにあったのかと驚くほど。自動車の運転というどちらかといえば地味な題材と、この映像美やセンスは非常にマッチしたものになっていた。


とにかくカメラワークが凄くて、流れるような画がぐわんぐわん続いて、片時も目が離せない作りになっている。主人公のドライバーが運転している映像は、肩越しから撮影した「よくある」ものなんだけれども、それだけでも上手さと格好良さが感じられる。男の背中で語る映画というかなんというか。そして、寡黙な男を演じたライアン・ゴスリングの、お前は高倉健かというくらいの不器用な感じも良かった。あ、でもそんなに不器用でもないか。コミュニケーションも取れる寡黙な男。


題名がドライヴなだけに凄いカーアクションがあるかと思いきや、そういうのはあえて控え目になっていて、それよりも物語の「ドライヴ感」を重視したものになっていると思う。この辺りは本当に観ないと伝わりにくいところだけれども、「緩やかなのに目眩がする」という表現が一番正しいように思う。それとバイオレンス描写! エレベーターの中での濃厚なキスの後の、殺し屋の顔面を執拗に踏み潰すシーンの恐ろしさ! 寡黙な男が非情な一面を見せた後の、物悲しい別れも素晴らしかった。


役者陣は誰も素晴らしく、僕は特にヒロインのアイリーンを演じたキャリー・マリガンに惹かれました。あの手の女に寡黙な男は弱いんだよ! と勝手に納得してしまうほど良かった。微妙な距離感や、楽しいドライヴ中の笑顔や、暴力の世界を垣間見てドン引きするところとか。


難点を言えば、観る人によっては「古くさいだけ」と感じるかもしれないというところか。物語的に目新しい部分はほとんどないと言ってもいい。これは物語の平板さを、何度も語っているカメラワークや、ストーリーテリングの妙で補っているわけで、マイナス面でもなんでもないと思う。そして、物語がどんどんのっぴきならない方向に行っても、それでもこの男なら、この男ならやってくれるはず! という期待感を積み上げていくことに成功している。演出もとてもいい。ライトの使い方とかとても勉強になった。


相当な玄人芸で押しまくる作品だけれど、観客が試されているような感じもあり、見終わったあとにとても疲れてしまいました。面白いのは確か。男は全員面白いというはず! 僕もこの映画を観てドライヴしたくなるほど、自動車映画の新しい地平を切り開いた作品だと思う。