『アシュラ』

映画館で鑑賞。


【ストーリー】
京都周辺を彷徨うゴクリは、ある村で「いとしいしと」を見付けて良いスメアゴルになるが、結局、いとしいしとを失って仏門に入る。
応仁の乱の時代、人肉を食べて生きてきた子供アシュラが、辿り着いた村で人間性を得るものの、すべてを失って人生を悟る。
第一幕:オープニング〜谷に落ちるまで
第二幕:若狭に助けられる〜洪水が起きるまで
第三幕:和尚が腕を切断する〜ラストまで


【見所】
意外にゴア描写を逃げずに描いているところ。
あと、声優陣は良かった。
森下アニメとしては、熊が出てきたときに戦慄が走った。


【感想】
感想に困る……


今、21世紀にあえて『アシュラ』を作るのだから、相当な勝算があってのことなのかなぁと思いつつ、ビジュアルのダークな感じや骨太の線描は予告編を観る時点でかなり「これはもしかすると、もしかするかも」という気持ちにもさせてくれた。で、ちょっと縁があって観ることができたのだけれど……


なんとなく、企画・監修をしている森下孝三さんが、宇多丸さんの「シネマハスラー」の『手塚治虫ブッダ』評を聴いて、「こいつはヤバい!」と思って、あれの悪かったところを逐一修正したのかなぁと勘ぐってしまった。今回は監督がさとうけいいちさんに変わっているので、ことビジュアル的にはかなり頑張ってCG全開のものになっている。でも、ビジュアルもなんというか、一昔前のフラッシュアニメっぽいんだよな〜特に若狭。モデリングそのままやないかと。


ただ、映像については特に言うことはないです。線の太い絵がアシュラの世界観にマッチしていたし、ゴア描写を逃げずに描いているので、その濃さに負けないものになっていると思う。あと、声優陣も頑張っていた。僕はアシュラの声を野沢雅子が演じているのは、ちょっと似合いすぎのような気がしてどうかと思ったけれど、違和感を覚えるキャストはない。


アシュラの原作は知らないけれども、連載されてた長編漫画を映画にする場合は、かなり脚本家の力量が要求されると思う。で、この映画の場合、脚本はどうかな〜というと、結論を言えば、映画的に面白い脚本構造があまり感じられないものになっていた。あらすじをなぞっているだけで、アシュラのエッセンスを映画的に咀嚼する過程がないと感じた。


細かいところを言えば、アシュラは村をウロウロしすぎだったり、和尚が腕を切断して逃げたはずのアシュラが次のシーンでは斧を持っていたり、そもそも若狭がなんでアシュラを「飼う」のか、その理由が描かれていなかったりと、気になるところはたくさんあった。大きいところでは、この話の展開ではアシュラのテーマを語ることに成功していない。結局、この物語はなにを言いたかったのか?血で血を洗う乱世で生きる意味を問う展開であるのに、若狭が最終的にああなるのは(原作がそうかもしれないけれど)消化不良の感があった。


要は、アシュラ以外の登場人物の内面を描くシーンがあんまりないのが諸悪の根源のような気がする。色んな人の生を描くことで、はじめてアシュラの生が対比できたはずなのに。そうすれば、もうちょっと面白い物語にできたと思うんだけれど。でも、全体的に見れば、そこまで悪くもなかった。というわけで、感想に困る映画だなぁと。あと、エンドロール後も京都の俯瞰図には何の意味があったのやら?