『戦火の馬』

近くの名画座で鑑賞。


【ストーリー】
馬が飼い主と別れて第一次世界大戦西部戦線に送られ、また飼い主と巡り会い帰る。
第一幕:オープニング〜嵐が来るまで
第二幕:カブ畑が嵐でダメになる〜鉄条網を切って助かるまで
第三幕:馬が陣地に戻る〜ラストまで


【見所】
馬の演技。馬なのに擬人化していると感じられるくらい。第一次世界大戦描写は、さすがスピルバーグという感じだった。前半の牧歌的な騎馬突撃から、後半のソンムの泥沼の塹壕戦まで、どんどん異界に迷い込む雰囲気が味わえる。


【感想】
スピルバーグが『タンタンの冒険』の不入りでヤバイと思ったのか、文芸調の作品を撮ったのは分かるのだけれど、どうにも締まらない話だなぁと思いつつ、それでも馬の演技に魅せられて最後まで観ることができた。


でも、僕の一番の感想としては、「馬は馬」だよね〜というものだった。故郷から遠く離れた地を彷徨い、また故郷に帰るというオーソドックスなストーリーでも、その主眼が馬に向けられているために成長がそれほど感じられない物語になっていると思う。前半の畑を耕すところで馬の成長は終わってしまっていて、戦地に赴いたあとは超馬的活躍をするだけになっている。もうちょっとそこは人間との触れ合いの中で、馬も成長するという明確な描写があれば……と思った。特に、少女との場面で。


とは言っても馬の演技は相当良かった。ドイツ軍に捕らえられて、大砲の牽引をさせられる場面で、力尽きた馬を撃ち殺すときの馬の「びくっ」とした反応とか、映画でありながらマンガのような人間性を感じられた。逆に、あまりに役達者すぎて、ちょっと一線を引いてしまうくらいだった。


スピルバーグ映画の重要な要素である演出については、今回はかなり抑えめにしていると感じられた。特に第一幕の演出は意図的に古くさい演出をしている。ここが古くさい演出に徹しているために、後半の戦場での落差がより際立つと思った。舞台が戦場に移った場面での演出は、さすがのスピルバーグ描写が満載で、地獄のソンムの描写は塹壕を這うネズミに到るまで一切手抜きのないものになっている。英国兵とドイツ兵が馬の鉄条網を切っていく場面が僕は好きだった。ドイツ兵が「カッターをくれ!」と言ったときに沢山のカッターが放り込まれるところとか。


あと、ストーリー的に競売ではじまり競売で終わるところは洗練されていて良かった。良い部分はたくさんある映画なんだけれど、全体的には地味な作品であることは否めないと思う。スピルバーグが監督しているからレベルは高いけれど、なんだか物足りないというのが鑑賞後の印象。