『後輩書記とセンパイ会計、不浄の美脚に挑む』

後輩書記とセンパイ会計、不浄の美脚に挑む

後輩書記とセンパイ会計、不浄の美脚に挑む


僕のお友達の青砥十さんが文芸フリマで出した短編集。表題の「後輩書記とセンパイ会計」のシリーズ6本と、独立した短編が3本からなる。ジャンルは妖怪ものだけれど、怖くはない。むしろ、妖怪が持つ不思議な部分に着目している感じ。


というわけで、「後輩書記とセンパイ会計」シリーズはいろいろなところに青砥さんが寄稿していたのを、一冊にまとめたものになっている。僕も以前に何本か読んでいたので、一冊にまとまってボリューム感が出たことでかなり面白さが増したように思えた。1作だけでも面白いのだけれど、やはり短編なので、ある程度の集合として読みたいという感想を持っていたので、既読した作品を含めてかなり楽しく読むことができた。


「後輩書期とセンパイ会計」シリーズの魅力のキモは、ふみちゃんの名前にあると思った。「ふみ」という名前からふにっとした感じを連想して、それが作品の雰囲気に良くマッチしていた。語り手の数井センパイのテンプレからはじまる語り口も、その雰囲気を支えていて読んでて楽しい。青砥さんは、ちょっと不思議な小説を書くのが本当に上手くて、藤子・F・富士雄の小説を書くなら青砥さんが適任でないかな? 


怪異がすんなり受け入れられる現実世界というのは書くのはけっこう難しいけれど、青砥さんの確かな文章力が難所を軽々と突破しているのを確認するだけでも楽しかったです。個人的に好きなのは貧乏神の話かな。胸が支えて出られない貞子みたいな貧乏神というのは笑った。独立した短編の中では『やろか水』が短いながらも切れ味するどく、しかも「やろか水」なんて妖怪がいるのか〜という驚きもあって面白かった。妖怪モノはちょっと馴染みのない妖怪のほうが面白いかもしれない。


あと、あとがきの作品解説が良かった。作中では説明がない妖怪の解説もしてくれるので、ちょっと不思議な小説を補完する意味でもあって良かったと思う。