『チェイサー』

DVDで鑑賞。


チェイサー [DVD]

チェイサー [DVD]


【ストーリー】
デリヘル斡旋業の元刑事が、殺人鬼の住まいを探す。
第一幕:オープニング〜ヨンミンの捕縛まで
第二幕:警察へ連行〜ミジンの死まで
第三幕:犯行現場を観る〜ラストまで


【見所】
人間の頭をノミとハンマーで叩くのは難しいよね。
ということが良く分かる。殺人鬼ヨンミンのヤバさ。ジュンホの心境の変化。ミジンの娘の可愛さ。


【感想】
ガツンとくる映画。韓国映画で殺し屋か殺人鬼の出てくる映画に外れはないなぁ。面白いとは聞いていたし、韓国ノワールの代表的な作品なので、ある程度身構えて観たけれど、これはとても良いものだった。


物語的には『チェイサー』の題名の通りジュンホや警察が殺人鬼ヨンミンを追う話になっている。でも、殺人鬼の正体は最初から出ているし、序盤でジュンホがヨンミンを捕まえてしまうのがポイント。ホジュンにボコボコにされたヨンミンは言葉を左右にして、警察の追求をかわしていく。その間にミジンを探すホジュンは、ヨンミンの異常さがどんどん明らかになって……という展開は、緊迫感を生み出すことができていると思う。ミジンが生きているので、早く探さないと、という気持ちになるし。


ミジンは頑張って殺人鬼の住まいをから逃げ出すことができたけれども、釈放された殺人鬼が偶然店に匿われているのを知ると、ハンマーで殴り殺されてしまう。この辺りの容赦のなさが韓国映画だなぁ。ミジンの電話にホジュンが(走っていて)気づかないというのも、すれ違いが良く表現できていたと思う。犯行現場になった部屋の、どうやったらあんなに血まみれになるのか、という惨状がすごい。ヨンミンの兄夫婦の子どもが頭蓋骨をかち割られているシーンや、水槽にミジンの頭がオブジェ的に入れられているシーンなど、本当に容赦のない描写が続く。


ホジュンは最初は最低の人間として描かれているけれども、ミジンの娘と行動を共にすることで責任感や正義感が目覚める男として描かれていて、その過程がとてもスムーズだった。この映画はホジュンがなにかになる映画ではないのに、追跡劇の中で人間的に成長するという、かなり難しいところを表現できていると思う。ヨンミンや同業者をボコボコにする感じも良かった。あの椅子で殴るシーンの鮮やかさとか。


警察は頑張っているけれども役に立たないという安心設定も、韓国だからありうるかも、という感じだった。日本やアメリカではこうはいかないだろうけれど、暴力や操作方法が緩いところを含めてサスペンス映画向きの国だと思う。ソウル市長の顔面にウンコをぶちまけるとか、「あー韓国っぽい」と思う描写が出てくるのは笑ったけれど。


この映画って実際の事件を題材にしているというだけあって、ディティールに説得力があった。ヨンミンの住まいのシャワールームの汚さとか、犯行の杜撰さとか、それでも証拠不十分になってしまうところとか。ヨンミンはあの住まいを暴力的な手段で手に入れたという、その無駄な行動力も殺人鬼の凄みがあった。警察署でのすっとぼけた顔も憎らしいし。韓国って連続殺人鬼が跋扈できるだけの、社会的な混沌があるんだなぁと思った。日本ではあれだけ派手なことをすると、すぐにバレそうだけれど(バレてないだけか?)


とにかく、ナ・ホンジン監督のデビュー作として最高の作品であることは確か。説明を省いて演出で処理する方法は新人監督っぽくない才能を感じさせた。もうちょっとテンポがあると……と思う部分もあるけれど、太鼓の音のBGMがとても効果的だったので、緊張感が途切れることはなかった。