『瞳の奧の秘密』

スカパーで鑑賞。アカデミー賞外国語作品賞受賞作。


瞳の奥の秘密 [DVD]

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【ストーリー】
裁判所の仕事を定年退職した男が、20年前の事件の真相に迫る。
第一幕:オープニング〜イシドロ・ゴメスの写真を見るところまで
第二幕:リカルドが母親に電話〜エスポシトが電車に乗るまで
第三幕:リカルドの住所を調べる〜ラストまで
たぶん、これでいいはず。もう一回観ればハッキリするけれど。


【見所】
伏線と視線。サッカースタジアムの追跡劇に、
これが映画なんだよバーカ!
と『阪急電車』とか『プリンセス・トヨトミ』とかに言いたくなる。


【感想】
傑作だった……


以前、DVDを借りていたのだけれど、見逃してしまっていたのでスカパーで放送されるということで気合を入れて観た。アルゼンチンでは11週連続1位というとんでもない記録を樹立した作品で、なるほどそれも頷ける出来だった。物静かな雰囲気なのに、まったく飽きるということのない展開はスゴいの一言。


昔の事件の真相に迫る男の物語というと『ドラゴンタトゥーの女』などにも通じる部分があると思うが、ミステリーとしてもサスペンスとしても物語の出来としても段違いの良さがあった。超洗練された映像と役者の力強い演技、張り巡らされた伏線と先の見えない緊張感でどんどん観客の興味を引っ張っていく。スタジアムでの追跡劇の匠さ、イシドロ・ゴメスを尋問するときの彼の視線でイレーネが犯人だと考えを変えるシーン、出口を塞ぐような会話の淀みのなさ、最後の監禁シーンの無言劇、どれを取っても素晴らしい。この作品を観てしまった後だと、『ドラゴンタトゥーの女』がいかにもショボイ、陳腐なサスペンス映画だったのかと気付かされてしまう。


僕が心底感心したのは、冒頭に書いた「怖い」という文字が、Aを付け足すことで「愛」に変わるという仕掛け。このためにタイプライターがAを打てないという描写があって、うわぁー大人の映画だ……と思った。アルゼンチンではバレバレな仕掛けなのかもしれないけれど、日本で見る分には本当に驚いた。また、同僚のパブロが酒場に入り浸っているという描写が、直近の展開だけでなく、その後の展開にまで影響を与えていたり、犯人逮捕の考察が真相を明かすことにも繋がっていたり、リカルドの性格がラストの残酷さを際立たせていたりと、いちいち最高だった。


フォルトゥーナ判事のエスポシトへの罵倒の仕方が面白すぎるとか、サッカースタジアムの場面の、人混みの中でゴメスが息を潜めてエスポシトが立ち去るのを待っていたところを、いきなり掴みかかられて逃げるシーンとか、エレベータの中でいきなりゴメスが乗り込んできて銃をちらつかせるところの緊張感とか、本当に見所が多い。エスポシト役の役者さんが、ちょっと痩せたデ・ニーロみたいなところも良かった。


これほど褒め言葉しか思い浮かばない映画も珍しいと思う。一点だけ、パブロが死んだ真相だけはちょっと甘いと感じたけれど、それ以外は非常に高いレベルで纏まっていた。あと、20年という月日を上手くメイクで表現しているなぁと、そこも驚いた。セリフに頼らない演技力にも驚く。アルゼンチンの、南米だけれどちょっとオシャレな雰囲気や、フォークランド紛争前の独裁国家の一面なども良く描けている。もちろん、男と女のラブロマンスとしても最高。アルゼンチン映画恐ろしい。日本ではこういう映画はなかなか作ることができないだろうと思うだけに。本当にオススメ。オススメすぎる。