『風の谷のナウシカ』

テレビで鑑賞。10回以上観たけれど、話の筋を忘れていた。


風の谷のナウシカ [DVD]

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【ストーリー】
ナウシカが風の谷を救う。
第一幕:オープニング〜酸の海近くでの王蟲との出会いまで
第二幕:トルメキア軍進行〜ナウシカが飛行船から脱出まで
第三幕:ガンシップの帰還〜ラストまで


【見所】
全部、と言いたいけれど、あえて言うなら世界観。ナウシカの幼少時の思い出の、大人たちの手の描写。王蟲の動き。あと、日本で軍隊描写ができる数少ない監督、宮崎駿の演出の数々。


【感想】
超有名な映画だけれど、話の展開がところどころ解らなくなっていて「あのシーンと、このシーンってどう繋がっているんだっけ?」という状態だったので、意外に新鮮な気持ちで見ることができた。原作の2巻までをまとめた作品になっているけれども、同時並行的なのでそれも仕方ないかな。


宮崎駿の作家性が一般にまで伝わった映画で、日本アニメのエポックメイキングな傑作であることには間違いない。ただ、作品としてはどうしても原作のほうが大傑作なので、その比較になってしまうのが可哀想なところ。原作と比較すると、この世界観を二時間映画にした無理がより一層際立ってしまう。でも、僕は原作をあんまり読んでいないから大丈夫だった!


改めて観ると、ナウシカは単に蟲を愛でる人ではなくて、もっと超能力的なシンパシーを王蟲と共有している人として描かれている。父親がトルメキア軍に殺されたときの描写は、まさに王蟲の行動そのもの。ナウシカの子供の頃のエピソードで、蟲憑きになったことが影響しているのだと思う。ペジテの赤い服を着ているときは、ガンシップコルベットを撃墜しても、そんなに心を痛めていないのも、王蟲の攻撃色と同じ精神状態を表現してる。


演出面で気になったのは、序盤でナウシカの説明セリフが続くところ。これ、今だと全部無言で通すと思う(『ウォーリー』みたいな)。おそらく宮崎駿もそうしたかったのではないかな〜とは思うけれど、さすがに腐海に沈む世界を説明セリフなしで観客に見せるのは難しいと判断したのかも。二時間映画にしているため、人物の掘り下げがあまりなされていないところは、原作を知っている人からすると惜しいところかも。特に、ユパ、クシャナ、アスベルの3人はもっと描きようがあったような。風の谷、トルメキア、ペジテの関係ももう少し描写がほしかった。


物語としては、原作と映画ではテーマに決定的な違いがあると思う。原作のエコロジー路線は、映画においては要素の1つでしかなく、それよりも『武力は役に立たない』ということが徹底的に描かれる。コルベットは飛行機一機に撃墜されまくり、トルメキア軍はユパに敗れ、銃声は虫を呼び寄せ、巨神兵は腐っている。


このテーマにしたのは、宮崎駿の冷静な計算があったからだと思う。エコロジー路線はやはり原作の分量があって、はじめて成り立つものだからだ。それに当時の日本では、まだエコロジーの考えが浸透していなかったこともあると思う。これが『もののけ姫』になると、観客にも宮崎駿の大テーマを受け入れる素地ができてくるのだけれど。


菌と蟲の世界は圧巻。見たことのない世界の構築に成功している。音楽はその後の宮崎駿作品と比べると、かなり異質なものに感じられた。同じ久石譲なのに不思議。トルメキア軍がジルの部屋への階段を登るときの手の動きとか、ペジテの飛行船に乗り移るときの描写など、軍隊描写は「解ってる感」が出ていた。追い詰められたペジテの人々の理屈を、正しいものとして描いていないところにも宮崎駿のモラルが感じられて面白い。