『処刑人』

スカパーで鑑賞。監督はトロイ・ダフィー。



【ストーリー】
アイルランドアメリカ人の兄弟が、神の啓示を受けて悪人をぶっ殺す。
第一幕:オープニング〜神の啓示を受けるまで
第二幕:警察署から釈放〜教会での出来事まで
第三幕:コメディアンの死〜ラストまで
第二幕と第三幕の繋がりが良く分からない。ドゥーチェがなぜボスの家に殴り込んできたのかとか、そもそもなぜ三人がいきなり捕まっているのかとか。


【見所】
ウィリアム・デフォーのウィリアム・デフォー力。ウィリアム・デフォーが出てくるところは全て見所と言ってもいい。あとは、スタイリッシュでありながらも間抜けな殺しの演出。


【感想】
監督のトロイ・ダフィーはこの作品で「タランティーノ2号」としてデビューするはずだったのが、本人の性格の問題から、配給先のミラマックスが降りてほとんど自主製作映画のような状態で監督をしたらしい。タランティーノと比較するのはちょっとどうかと思うほど、映画の出来は荒いものが目立つけれども、新人監督の無鉄砲な面白さは十分出ているのではないかと思う。でも、トロイ・ダフィーはこのあと一発屋になってしまい、『処刑人2』が最近公開されただけの人になってしまった。


物語的にはビジランテ(自警団)ものにジャンルされる映画だと思う。ただ、この映画の変わっているところは、ビジランテものに欠かせない「善良な市民が我慢するけれども、悪党が襲い掛かってくるから仕方なくぶっ殺す」という描写がないところ。どちらかといえば主人公の兄弟2人はチンピラみたいなものだし、悪党とは言っても人を殺すことの罪悪感は「神の啓示」があるから全然ない、という驚きのハードルの低さが設定されている。そうなると、ビジランテものの要諦は「自制」から「暴発」に移るところでのカタルシスにあるけれど、今作ではそれが感じづらいという問題が出てくる。


その問題をクリアするために用意されているのが、ウィリアム・デフォーと、彼が推理するスタイリッシュな殺しの場面だ。『処刑人』の魅力のほとんどは、ここの部分の面白さにあって、「処刑」という倫理的にどうかという展開を、「でも面白いからOK!」と観客に思わせるまでに昇華できていると思う。あと、こういう映画に特有の「キャラが立った登場人物たち」という描写もできていて良かった。ウィリアム・デフォーの演じる捜査官と周囲の刑事たちや、マフィアのボス、主人公の兄弟も気の良いお兄ちゃんっぽくて嫌悪感のないキャラになっている。ロッコはもう少し面白い使い方ができたと思うけれど、アッサリ撃ち殺されてしまったのは残念だった。


殺し屋宅での惨劇を推理するウィリアム・デフォーは本当に笑える。「プラトゥーンみたいにやってください」と言われたんだろうなぁ。残酷描写というか、暴力に到るまでの過程が軽いというか、1999年公開という当時の映画界の空気を反映したものになっている。才能ある映画監督はたくさんいるけれども、生き残れる映画監督は一握りなんだな、と思う作品だった。