『その土曜日、7時58分』

スカパーで鑑賞。巨匠シドニー・ルメット監督。フィリップ・シーモア・ホフマン主演。



【ストーリー】
親の宝石店を襲撃する計画を立てた兄弟が、失敗したことでどツボにハマっていく。
第一幕:宝石店強盗
第二幕:母の葬儀
第三幕:破滅
三幕構成で弟、兄、父の順番で物語が恐ろしいスピードで進んでいく。


【見所】
巨匠が遺作で傑作を撮ることはほとんどないのだけれど、この作品はその数少ない一本だと思う。全編見所。ジェットコースターのような展開に時間も忘れてしまうほど。


【感想】
シドニー・ルメット監督の作品は、最近観た中では『ファミリービジネス』なんて作品があった。軽妙な作品だったものの、そこまで面白いとは思えなかった記憶がある。監督的には『評決』以降は映画を撮るけれども、傑作には縁のない職人監督という評価がついているようだった。でも、遺作となった今作は、ルメットが最後に一花咲かせた作品として永く語り継がれると思う。


宝石強盗が失敗して人生のどツボににはまる兄弟の物語を、三人の視点で三回繰り返して、因果応報的に決着がつくという構成が、ビックリするくらい上手に描かれている。視点の切り替えがこれほど気持ちよくできるものなのか、と思うし、演出力も相当高いレベルでまとまっていた。


社会的に成功しているけれども横領が発覚しかけている兄をフィリップ・シーモア・ホフマン、情けないダメ男の弟をイーサン・ホークが演じていて、この二人のキャラクターが立ちすぎていて素晴らしかった。ふくよかな顔と、ギリギリのところでは開き直って暴走する演技で、ホフマンの魅力が全開になっている。イーサン・ホークのバカ弟も良かった。僕の友達そっくりだし。


物語がどんどんどうにもならないところに転がり落ちて、最悪な状況を最悪な方法で乗り越え方とするけれども、もっと最悪なものが控えていた……という重量級の愛憎劇が描かれる。物語的には小さく纏まったものなのに、語り口の名人芸によって、ここまでハラハラドキドキさせられる映画になるのか!と感嘆した。あと、なによりもスピード感。映画ってテンポが良ければそれだけで高評価になる見本のような作品だと思った。


とにかく傑作。惜しむらくは、ルメットがこの映画の完成後に亡くなってしまい、老人パワーをもう堪能できないということか。映画史に刻まれる巨匠の遺作として、これ以上のものはなかなか出てこないのではないかと思うほどオススメです。