『八日目の蝉』


八日目の蝉 通常版 [DVD]

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スカパーで鑑賞。角田光代原作。


【ストーリー】
「許される誘拐もある」という理屈を三時間掛けて語るが、結局、誘拐によって誰も幸せになっていないという本末転倒さ。


【見所】
小豆島の風土。エンジェルホームの浮世離れ感。小池栄子のがっつき具合。田中泯のオーラ。


【感想】
何気なく観ていて「感情移入できない映画だな〜」と思っていたら、永作博美渡邉このみが小豆島に行って、それからグッと面白くなってきた。原作を読んでいないのだけれど、wikiなどを観ていると、一章が野々宮希和子の物語で、二章が秋山恵理菜の物語になっていて、映画版ではストーリーが交互に展開するところが最大の違いになっているのかなぁと思った。これは映画的な持続力を維持するためには必要な変更だけれど、反面、二つの物語を交互に挟むことで誰が観ても面白い「野々宮希和子の物語」がアクセルを、観る人を選ぶ「秋山恵理菜の物語」がブレーキの役割になってしまい、なんとも飲み込みづらい内容になっていると思った。


「誘拐してたときが人生最高の日々」だった女と、「誘拐されてたときが人生最高の日々」だった女の物語になっていて、特に後者にまとわりつくアンチモラルな雰囲気は観客の感情移入が難しいものになっている。なぜかというと「野々宮希和子の物語」は事後の徹底して幸せのない描写が続くからだ。この映画で描かれている論理には、かなり問題がある。秋山家が「娘を誘拐されても仕方がない家庭」として描かれているけれども、そうであればラストに親との問題に和解という決着をつけるべきだったのではないか。実際の所、この映画はそうなっていないので、「許される誘拐もある」という理屈を助長していると非難されても仕方がないと思う。しかも、誘拐の結果、結局は誰も幸せになっていないので、本末転倒とはまさにこのことだと。


そもそものプロットとして秋山家の最低夫婦設定は必要だったのかと思う。これ、野々宮希和子と人間的には同程度であったほうが、ドラマ的にもっと盛り上がっただろうに。上記の理由から、そもそも「秋山恵理菜の物語」を描く必要があったのだろうか。そこはオープニングとラストだけで良かったのでは? 映画としての根幹の部分で拒否反応が出てしまったために、正直言って乗れない映画だったとしか言いようがない。でも、巷では「秋山恵理菜の物語」も評判いいみたいなんだよねぇ。これ、北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの物語に置き換えたらどうなんだろうとか、そういうことばかりが頭に浮かぶのだけれど……


役者陣はおおむね頑張っていたと思う。特に永作博美市川実和子小池栄子田中泯は良かった。小池栄子のがっつき演技は、不毛な「秋山恵理菜の物語」を一人で背負っている良さがあったと思う。写真館の店主の異様な存在感は、あとで田中泯と分かって納得。佇んでいるだけで異質な空間が出来上がっている。子役も良かった。エンゼルホームの描写も浮世離れした良さがあって面白い。あと、小豆島。小豆島に物語が移ってからは本当に良い絵の連続だった。瀬戸内海の島が舞台の映画にハズレなし、ってことでいいのかなぁ。個人的には納得しかねるけれども、前半はダメダメ、後半はベリーグッドな作品だったと思う。