『相棒 -劇場版- 絶体絶命! 42.195km 東京ビッグシティマラソン』

テレビで鑑賞。


相棒 -劇場版- 絶体絶命!42.195km 東京ビッグシティマラソン〈通常版〉 [DVD]

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【ストーリー】
警視庁特命係の二人が、謎の連続殺人事件を解決する。
第一幕:オープニング〜片山大臣襲撃まで
第二幕:花の里〜倉庫の爆発から生還まで
第三幕:西田敏行逮捕〜ラストまで
第一幕と第二幕の境は正直微妙。SNSの発見から第二幕がはじまるとは思うけれど。


【見所】
テレビドラマの劇場版ということだけれど、シナリオは映画的にブラッシュアップされていてテンポが良い。東京マラソンを舞台にタイムリミット的なハラハラ感を出しつつ、見せ場に次ぐ見せ場で観客の思考を麻痺させる展開は上手い。スケール感もある。スケール感のある日本映画というのは作るのが難しいだけに、それだけで評価できる。


【感想】
僕は『相棒』はかなりファンで、ドラマも観ているし小説も読んでいる。なので、テレビドラマの延長線上として鑑賞すると、かなりスケール感もあって面白いものがあった。昨今の日本映画では人数感のある映画を撮影するのも難しいので、それだけでかなり評価が高いです。演出面でも丁寧な描写が出来ているところも好感が持てた。一番良いのはテンポ。テンポが良いだけで映画としてグッと面白くなる。


でも、劇場版の『相棒』は二点看過できない問題があると思う。


一つは、現実の「イラク日本人青年殺害事件」を下敷きにしているにも関わらず、物語上の最大の悪役である御厨元首相の掘り下げが足らないこと。事件の発端になる誘拐事件とSファイルについて、御厨元総理がなぜそのような対応をしたのかという動機が語られないのはさすがにどうかと思った。なぜなら、御厨元首相が露骨に小泉純一郎をモデルにしているから。メディア的な「小泉絶対悪イメージ」を元にしたキャラクターである御厨元首相が、動機もなく人質を見殺しにし、被害者バッシングを仕向けるようなことをするというのは、じゃあ現実もそうだったのか、と人々に錯覚を与えかねない危険な描写だと思う。


製作者の意図として、「イラク日本人青年殺害事件」についての小泉純一郎の対応を批判したい意図は分かるのだけれど、それなら政府の陰謀で被害者バッシングが行われたという描写はフェアではないと思う。ちゃんと実在の人物を批判する場合は、実際の事実に即して批判しないと、フィクションで実在の人物を批判する手法は劇中のマスコミと何ら変わらないのでは??


もう一つは、物語の着地が『相棒』の理念とは真逆のところになっていること。この映画の主犯格は手駒として使った人物を含めて4人も殺して目的を達しようとしたのに、御厨元首相を弾の入っていない拳銃で襲おうとするなど、良く分からない手段が目立つ。しかも、杉下右京も右京で、最後の取調室の会話で「あなたのやったことは許せません」と言うだけで、殺人はうやむやになってSファイルの行方に焦点が移って、なんとなく美談的な展開になってしまう。でも、4人も計画殺人をした男が、最後の御厨暗殺をわざと失敗して裁判でSファイルのことを白日の下に晒すというのは、ちょっと納得できないことだった。それなら御厨元首相をぶっ殺した後で、裁判でSファイルのことをぶちまけてもいいじゃないかという。


そもそも、『相棒』のテレビシリーズなどを観ると、製作者は明確に「どんな理由があっても人を殺すことは間違っている」という理念を持っていると思う。それが杉下右京の厳しさの源泉になっているわけだし、物語展開にも単なる「○○という理由があったから殺した」という動機を、「実は○○というわけで殺す必要はなかった」という一ひねりを加えることで、殺人の不毛さをちゃんと描いていた。でも、劇場版では西田敏行の泣き演技で、Sファイルと4人(と、実行犯1人と、爆破から逃れた2人)の命がつりあうもののように描かれているのは非常に問題がある。これはおそらく、御厨元首相(小泉純一郎)を批判したいという真の意図によって、映画全体の完成度が犠牲になったのだと思う。


あと、「死のゲーム」を迫る系の話って、よっぽど脚本に自信がないと、手段と目的が引っ繰り返った話になるだけだと思う。