『冷たい熱帯魚』

園子温監督、吹越満主演。


冷たい熱帯魚 [Blu-ray]

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実際にあった猟奇殺人、埼玉愛犬家殺人事件にインスパイアされたサスペンス映画。超評判高い作品で、見たい見たいと思っていた作品をようやく鑑賞した。なんというか、とにかく「唖然」としか言いようのない迫力に満ちていた。


【ストーリー】
殺人鬼の片棒をかつがされた男が、悪夢的な状況でもがき苦しむ。
第一幕:オープニング〜社本のショップまで
第二幕:社本のショップ〜村田の死亡まで
第三幕:社本の着替え〜ラストまで
ノンストップで進む恐ろしい物語。登場人物の迫力に震撼する。


【見所】
でんでんが演じる熱帯魚店の経営者(にして殺人鬼)の村田。もう喋ることのすべてがシビれる憧れる。どこにでもいそうなオヤジが、いきなり冷酷な牙を向いて血まみれになっていく描写に戦慄必至。黒沢あすかの村田の妻も良かった。最後の力関係が逆転したときの忠犬メンタリティはヤバい。ドスの効いた声とか、修羅場の部屋を一枚隔ててのレズっぽい絡みとか。


【感想】
シネマハスラーとかで面白い面白いという話は聞いていたので、いつか観ようと思っていた作品。でも、怖いのは嫌だな〜と思ったけれど、意外に怖くなかった。サスペンスだから当然か。


とにかく、頭の剥げたひょうきんな親父を演じている村田が怖すぎる。こういう人って、街中にそれこそ山のようにいるというリアルさ。少し前まで和やかに会話をしていたのに、人が死ぬのもなにも思っていない男の凄みが出ていたと思う。ハリウッドで映画化するとしたら……フィリップ・シーモア・ホフマンあたりが適役か。セリフの一つ一つにも重みがあって、それでいて面白い。野獣のような本性で、弱者を支配する術を知っているところも「あるある感」が出ていた。


物語的には、強烈なキャラクターが大暴れするのを、唖然として見守る映画なので、細かい違和感はそれほど感じなかった。警察がちょっとどうかな〜という点くらい。演出力も上手くて、キャラクター同士の視線が届かないところの表情や会話などを観ると、キャラクターの内面が透けて見えて面白い。吹越満は、悪夢的状況をさまよう男として、観客が感情移入するべき役回りなのだけれど、実際はでんでんが第二幕までの主人公で、第三幕でようやく感情移入できるキャラになっている。


面白かったのは暴力描写。村田と社本の殴り合いでは太刀打ちできなかった社本が、村田を殺すことでパワーを得るというのは、水銀が魚の食物連鎖でどんどん蓄積していくさまを描いているようだった。第三幕に入ってからの社本の力強さが物悲しいのは、その連鎖がついに人間には耐え切れなくなって自壊するシークエンスだからだと思う。


あと、やっぱり黒沢あすかの凄みが良かった。あの店員とレズっぽい遊びをしているということは、社本の娘もそうやっててなづけられているのかな……とエロい妄想をしたり、死体を運ぶときの江戸時代のヤクザの姐さんみたいな掛け声とか、無菌培養されたアイドル女優とは一線を画している。なによりもエロいし。


日本映画って、ハリウッドはもちろん、韓国映画にも負けているじゃないか!というフラストレーションを晴らす作品になっていると思う。