『イップ・マン 葉問』

DVDで鑑賞。


イップ・マン 序章&葉問 Blu-rayツインパック

イップ・マン 序章&葉問 Blu-rayツインパック


【ストーリー】
永春拳の達人が、友の仇と中国の誇りをかけて、英国人ボクサーと戦う。
第一幕:オープニング〜魚市場の大乱闘まで
第二幕:イップ・マン逮捕〜ホンの死亡まで
第三幕:対戦決定〜ラストまで

【見所】
永春拳の達人のイップ・マンの佇まい、洪拳の達人のホン(というかサモ・ハン・キンポー)の人間力、英国人の的確なダーティー描写、そして中国誇らしいとなる的確で清貧な描写。

【感想】
ブルース・リーの師匠、イップ・マンの壮絶な人生を描く……という今作は実は二作目で、さらに面白いと言われる『イップ・マン 序章』があるのだけれど、それは未見。見た方が良く分かる描写もあるものの、基本的には新天地で新たな人々との関係で物語が進むので気にせず観ることができる。


良かったのはイップ・マンの達人なのに生活に困っている描写。イップ・マンの優柔不断とも取られかねない性格(これは泰然自若という中国人が一番好む性格になっているのだろう)で、授業料を徴収するのにも一苦労なのに、出費がかさむ描写は容赦なく描かれる。金に縁がないイップ・マンと、札束を鷲掴みにするイギリス人の対比が清々しい。


この映画は「中国誇らしい」という描写と、「西洋人汚ない」という描写が比例して積み重なっていく構造になっていて、しかもイップ・マンが生活臭あふれ、人格者の拳の達人として描かれるので、本当に感情移入できる作りになっている。教え子がやんちゃで、彼らの暴走を一身に背負って、それをなんとかしてしまう描写も素晴らしいし、権力の犬だった面々が中国人の誇りを取り戻していくところも上手かった。


クンフー描写は、ちょっと荒唐無稽なワイヤーアクションも織り交ぜつつ、基本的には永春拳や洪拳によるアクションを魅せるものになっている。面白いのは、こういう映画だとボクシングは中国拳法の咬ませ犬的な描写をされがちなものだけれど、ちゃんと一撃必倒の危険な武術としての描かれ方をしていた。ラスボスのツイスターは野獣的な男で、1950年代の喧嘩と紙一重のボクシングスタイルで良かったと思う。


「西洋人汚ない」描写は、日本人も中国人も受ける印象は変わらないなぁというのが発見だった。「金に汚ない」「人種差別主義者」「危なくなったらルールを変える」「そのくせ自分たちの反則は黙認」という的確さ。あと、中国人の荒くれ描写や「俺は悪くないロジック」もちゃんと出てきていて、この辺りのバランス感覚はそれなりに取れていると思う。


物語的にはほぼ完璧なクンフー映画。でも、一点だけ、ハンが死ぬ時点で、イップ・マンが仇を討つべき「お前がNo.2の実力者」的な描写がないのはどうかと思った。もちろんハンと引き分けた実力の持ち主だというのは他の人々も見知っているが、それだけでイップ・マンが最後の戦いに出るべき男であるという理由付けとしては弱い。ここで続編であることを踏まえて、「あの冴えない男は、かつて日本の軍人と決闘をした伝説の拳士」的な話があっても良かったと思う。


そして、これを見たので序章も観たいと思った。でも、序章の悪役は日本軍で、これでもかという「中国誇らしい描写」と「日本人汚ない描写」が蓄積していくかと思うと、そしてそれが素晴らしい出来らしいので、微妙な気持ちになりそう。