『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』

スカパーで鑑賞。

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド [Blu-ray]

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石油王の一代記を通して、強欲と狂信のガチンコ対決を描く……という内容でいいのかなぁ。監督は『マグノリア』『パンチドランク・ラブ』のポール・トーマス・アンダーソン。この映画は本当に面白くて、考えさせられるものなので、単純な解釈を折ってしまうものがあると思う。ポール・トーマス・アンダーソンはドラマを作るのが上手すぎて、もはや主役のダニエル・ジェイ・ルイスを撮すだけでドラマを成り立たせている。


主人公の石油王は本当にろくでなしなんだけれども、自分に忠実でひたむきで、全力で暴走するので観客も自然と感情移入できるようになっていると思う。たぶん、彼の対比として描かれる福音派の伝道師が、こちらもトンデモなキャラクターで、薄っぺらな狂信的人物であるから「選べと言われればこっちかなぁ」という具合に主人公のほうに感情移入するのだ。僕は石油王の抱える空虚さのようなものが理解できて、みんな理由や動機のない乾きを満たすために右往左往しているのではないかと強く思う。だから、単純な理由や動機を押し付ける人間や世間には良い印象がない。作中で主人公が「俺は人の悪いところを見通す」と言うけれども、それは僕にもあるなぁとシンパシーを感じた。


とにかく、映画の音楽が不穏でコミカルで上手い。冒頭の主人公の採掘シーンから、もう画面に釘付けになる。吹き上がる石油、吹き上がる炎、子供を抱えて逃げる主人公、大暴れする主人公、観ていて自分の人生のような感じになると思う。でも、こういう人生は送りたくないな〜と思ったら、ボーリング場でのあのシーンがあって唐突に終わる。豪邸に住んでいても床で眠る主人公が物悲しい。でも、基本はコメディだと思うんだよね。どつき漫才的な。


狂信をも飲み込む怪物になった主人公の、ミルクセーキのくだりは本当にスゴイ。これが、これがアメリカ人だ! という感じ。映画では表面的には福音派を批判的に描いているように見えるけれども、本当のところはアメリカなるものが他の敵対者をどう潰していくかの物語であると思う。アラビアまでストローをつっこんで吸い取る、みたいな。