『12ラウンド』

WWEの人気レスラー、ジョン・シナ主演のアクション映画。テロリストを逮捕した警官が、そのときにテロリストの恋人を死なせてしまったことで逆恨みされて、彼の脱獄後に死のゲームに付き合わされる……というもの。監督はアクション映画バカ一代、レニー・ハーリンレニー・ハーリンは『ダイ・ハード2』や『クリフハンガー』などで知られるアクション映画が得意な映画監督なんだけれども、実はディズニーにも縁がある。彼が監督した『カット・スロート・アイランド』はハリウッド史上最大の赤字映画としてギネスにも載っていたが、「海賊映画は当たらない」というジンクスを『パイレーツ・オブ・カリビアン』で覆したのはディズニーだ。しかも、そのディズニーが作った『ジョン・カーター』は史上最大の赤字映画の記録更新になる見通しで、「史上最大の赤字映画監督」というレニー・ハーリンが持つ不名誉な称号すらもディズニーが肩代わりすることになった。


映画はオーソドックスなアクション映画で、アクションのためのストーリー、アクションのための展開、といった話が続く。物語的に一番近いのは『スピード』で、死のゲームに付き合わされる警官のすったもんだを、レニー・ハーリン的に大味に派手にしたようなものになっている。あれだけ消防車で破壊の限りを尽くして海に放り込んだ爆弾の爆発が意外にショボかったり、物語的には「ちょっとどうなんだ」と思う展開がありすぎるが、そこは監督の冴えるアクション演出で細かいところを押し流していると思う。個人的にはアクション映画の水準はクリアしていたので予想以上に楽しめた。


でも、この物語ってWWEの人気レスラー、ジョン・シナが小賢しい悪党を己の筋肉一つで押し通るのを鑑賞するものだと思うが、意外にそういう描写がなかったりする。特に、一対一の格闘場面はあって良かったのではないだろうか。エレベーターでのシークエンスとか、ジョン・シナと太った警備員のデスマッチ展開にしたほうが面白かったと思う。これはたぶん監督が『スピード』を意識しすぎだからで、ジョン・シナが悪党の出すゲームをそこそこ知的にクリアしていくのは、観客層が求めるものからしても乖離している。さらに、有名俳優が一人も出ていないので、どうしても画面に地味さが漂っていると思った。


あと、やはりこの映画で一番の問題点は、悪役がショボイところに尽きると思う。レニー・ハーリンって『クリフハンガー』のときから悪役描写が下手だったけれども、今作もそれを踏襲している。主人公がジョン・シナで筋肉バカだから悪役は知的な人物を配役したのだろうが、前述の通りジョン・シナが思ったよりも頭が良いキャラなので、悪役の知的さが逆に「何でこんなめんどくさいことを」というバカさに転化しているように感じられた。一応、めんどくさいことの理由も描かれているけれど、それでもめんどくさいことに変わりない。この映画に限らず、死のゲームをさせる悪党というのは不気味でサイコな人物であるべきだと思う。あと、知的には描かれているけれども、一人(もう一人協力者がいるけれど)で警察とFBIを手玉に取るほどの知的さはなさそう、というのも……


描写は光るところが随所に観られた。特に悪役がいちいち携帯電話のSIMカードを交換するところとか。携帯電話をどう活用するかで現代のアクション映画の質は決まると言っても過言ではない。そういう基本的なところができているから、大味な映画でも楽しめるのだと思う。アクションシーンのカメラワークとかは、さすがのレニー・ハーリンで緊迫感があって良い。