『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』

誰も言わないけれど、これは宗教映画です。

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

2005年に発表され、「9・11文学の金字塔」と評されたジョナサン・サフラン・フォアによるベストセラー小説を、「リトル・ダンサー」「めぐりあう時間たち」のスティーブン・ダルドリー監督が映画化。9・11テロで最愛の父を亡くした少年オスカーは、クローゼットで1本の鍵を見つけ、父親が残したメッセージを探すためニューヨークの街へ飛び出していく。第2次世界大戦で運命の変わった祖父母、9・11で命を落とした父、そしてオスカーへと歴史の悲劇に見舞われた3世代の物語がつむがれ、最愛の者を失った人々の再生と希望を描き出していく。脚本は「フォレスト・ガンプ 一期一会」のエリック・ロス。オスカーの父親役にトム・ハンクス、母親役にサンドラ・ブロックアカデミー賞俳優がそろう。

失われたニューヨーク第6区を探す、父と少年が石をやりとりする、少年が鍵を手に入れる、旅に出る、「どこへ行く?」と尋ねられる、呼び掛けに応えない、本が完成する。というわけで、アメリカの観客はこれを見て「あ、聖ペトロの物語なのか!」と思うわけです。少年が来ているパジャマに魚のプリントがされているのも、たぶん聖ペトロが漁師だったことの暗喩なわけです。また、頑固な人間と知られている聖ペトロを現代的にアスペルガー一歩手前の少年に置き換えたのもたぶん、そういう意図があるからだと。どんなバカなアメリカ人でも読む本、聖書を下敷きにしているために、この映画は単なる911映画の枠を超えた感動を呼ぶ強さを得ているのです。

なので、日本人が見ると、どうにも腑に落ちない展開がたくさんあるように思えます。たとえば主人公の少年の「いけないこと」には、そこに宗教的な意味を見出せないと、なかなか理解しがたいことだと。でも、この話が聖書を下敷きにしていると気が付けば、ちょっと無理があると感じられる展開にも必然性が与えられるというわけです。ラストで主人公の少年が作った本の中で、ビルから落ちた人間が昇天するのも、父親がキリストであることを暗示している、そこに感動が生まれるのだろうと思います。

個人的な見所としては、同居人に旅の途中で出会った人々のことを喋る場面と、鍵の本来の持ち主に911の日の電話のことを話す場面と、ラストは本当に号泣ポイントでした。はじめから泣かそうという意図を元に、綿密に計算された映画なので、もう本当に屈服させられます。本当に良い映画なのですが、一年に一回くらいで十分だと思いました。ただ、映画としては最初のところが説明不足な感じがあったかな〜と。それに日本人に聖書の物語はなじみ薄いので、911と美少年の演技だけでこの物語が語られているのはちょっともったいないかも。オスカー役の少年は女性のハートを鷲掴みにすると思う。トム・ハンクスは重要な役所なのに、あんまり印象に残らなかった。サンドラ・ブロックは傷心の母親役を十二分に演技できていたと思います。

なじみのない聖書を下敷きにしているから、日本人には?が思い浮かぶところが多いと思います。本当は映画配給会社は聖書との関連をこそ語るべきだと思うんだけれど、残念なことに誰も語らないんだよねぇ、これ。