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光市母子殺人事件の加害者の弁護士の手記が載っていた。それ自体は『たかじんのそこまで言って委員会』で語っていたことの焼き直しだったのだけれど、元少年人間性についての理解を求めるには絶対的に不足し、また言及されていないことが気になった。つまり、あの手紙は元少年にとってどういうものだったのかということだ。この事件の核心部分である「手紙」の件にまったく触れずに、元少年人間性を云々言ったところで空虚な空言でしかないだろう。
被害者を「犬」と書いた、あの手紙はどういう状況で、どういう心理から書いたものなのか、それをこの弁護士は書いていない。『たかじんの〜』でもおそらく言わなかったと思う。確かに、事件の動機には虐待や特殊な家庭環境があったのかもしれないし、異常性には「魔界転生」や「どらえもんが何とかしてくれる」等の幼児性が絡んでいたのかもしれないが、こと人間性においては、あの手紙の是非こそが問われるべきだったと思うし、弁護士はあれこそを語るべきだろう。なぜなら、あの手紙がなければ元少年無期懲役だったであろうし、世論が彼の死刑を支持することもなかったはずだからだ。あの手紙がなければ、普通の殺人事件で終わっていたかもしれない。
最大のキーポイントである「手紙」について語るのは、弁護士にとって「弁護」を逸脱することなのかもしれないが、人の生き死にを考えさせたいのであるなら、そのことをまず語るべきだろう。死刑は更正不可能な人間に対して執行されるものであるが、あの手紙は元少年が更正不可能であることを納得するに十分な内容だった。弁護士が元少年人間性をどれだけ語ったところで、手紙のことを書かなければ、死刑を求める人によってあの手紙は一言一句利用されて、弁護士が覆したい元少年の「悪魔」のイメージをさらに深めることになると思う。