『The Book』(ネタバレ)

普段小説読まないんだけれども、これだけは別ということで。

The Book 〜jojo's bizarre adventure 4th another day〜

The Book 〜jojo's bizarre adventure 4th another day〜

ジョジョの奇妙な冒険』第四部のノベライズを、乙一が書くという、これ以上ないくらいの企画。若手の小説家で荒木飛呂彦の影響を受けていない人は少ないんじゃないかと思うくらいだけれども、これだけビッグネームの人が書くとというのは話題性として十分すぎる。乙一はこのノベライズに相当入れ込んでいたようで、2000枚以上の原稿用紙を試行錯誤の末に破棄して、以前出したノベライズの冒頭部分を破棄して、完全新作を作り出した。で、その出来はというと……
【感想】
モッツァレラチーズとトマトのサラダが出てきて、億泰がチーズとトマトを別々に食べた感じ? だと思いました。荒木飛呂彦の世界と乙一の世界が別々にあって、それぞれはまあ美味いという意味で。思うに荒木飛呂彦の世界に乙一が果敢に切り込んでいったけれども、攻めきることはできなかったのかなぁという印象です。というのも、ジョジョの世界の人間と「The Book」の登場人物の係わり合いが難しそうだと感じたから。一応、因縁はつけてはいるんですけれど、それでも戦う理由が希薄じゃなかなと。
それと、乙一の文体に慣れていなかったので、漢字とひらがなの振り分けかたがちょっと不思議に感じた。動詞はひらがなにしているのが、もしかしたら複線なのかと思ったが杞憂だった。
【批評】
まず、視点と人称が動きまくる。これを纏める手法はかなりのものだと思うが、乙一がこういう書き方をしたのは、確実にマンガを意識してのこと(マンガは視点と人称を自由にいじれる)だと思う。素人がこういう書き方をしても散漫になるだけだけれども、本当にうまい人が書けば味わいにもなる。また、人称や視点が変わっても読みづらくないように、きちんとバランス配分が考えられている。
登場人物の一人が狭いところに閉じ込められるシークエンスは、乙一の真骨頂だと思う。こういう異常な状況下を書かせれば、乙一は日本でも屈指の書き手ではないだろうか。荒木飛呂彦はこういう話を描きそうではあるけれども、「あがく」ことを描いても「耐える」ことは描きがたいような気がする。そういう意味では、ジョジョのノベライズにして、一番ジョジョらしくない部分で乙一は点数を稼いだなと。
逆に、一番ジョジョらしい部分では、乙一の筆はかなり鈍ったと思う。終盤のスタンドバトルの場面では、かなり無理をして書いているようだった。とりあえず億泰のバトルは冗長すぎたような。手品の明かされたスタンドと、手品の明かされたスタンドが戦うというのは、小説内ではありだとしても、ジョジョを読みなれている人間からは「なにか違う」と感じるものがあった。荒木飛呂彦のうまいところは、能力の『謎』を考える力と、能力『+α』を考える力にあって、乙一は『+α』の部分にもっと力を入れる必要があったと思う。
ジョジョネタは、冒頭の鋼田一の話から今まで食べたパンの枚数まで、かなり広範囲に取り込まれている。特に、「ああ、そんなのあったね」で片付けられる東方仗助の過去のエピソードが、最後のぎりぎりの場面で出てくるのは上手い。ジョジョが好きな読者のポイントポイントを逃さない細かさは流石(トニオさんも出てくるし)。惜しいのはミキタカとか噴上裕也とかも出てきてほしかったな〜というところ。承太郎やジョセフ・ジョースターが出てこないのは仕方ないか。
【その他】
『The Book』……本がスタンドといえば、三部ノベライズに出てきた『創生の書』が思い出されるけれども、能力的に言えば『ヘブンズ・ドアー』とそれを組み合わせた感じ。特に「敵が文字を読まないと発動しない」ところは『ヘブンズ・ドアー』そっくりで、攻略法も(目を閉じる)で基本的に同じだった。で、琢磨がいつ仗助の頭のことを言い出すのかと、別のところでドキドキしてしまったが、乙一もさすがにそこまで同じにはしなかった。
『メモリー・オブ・ジェット』……プッチ神父がディスクにしそうな微妙なスタンド。乙一のミスリードのテクニックは一級品だと思う。冒頭部分は読み返してみるとかなり上手い。
『岸部露伴』……荒木飛呂彦でした。
虹村億泰』……今回はかなりシリアス。バカっぽい部分をもっと出したほうが良かったような。全体的に暗い雰囲気の作品なので、彼のようなキャラクターが息抜きをすれば面白いのにと思ったが、さすがに乙一にビーバップ的な話を書かせようとするのは難しそうだ。
広瀬康一』……幸せ太り、というよりも荒木飛呂彦はもう康一のようなキャラクターは書けないのかもしれない。スタンド使いとして、あまり活躍しないのは使いどころが難しそうだからか。エコーズact3も登場せず。
東方仗助』……やはりシリアス。やっぱりバカっぽい部分がもっとほしかったと思う。口調はかなり変で、このキャラクターを小説で書くというのはかなりの高難度(「〜っスよ」みたいな口調)。そういえば「グレート」と言わなかったなぁと今気づく。