『ゲド戦記』


ゲド戦記 [DVD]

ゲド戦記 [DVD]


予告を見たときから大した映画ではないと直感し、試写会の評判は散々、宮崎吾朗ビッグマウス押井守にダメだし)は顰蹙を買い、おすぎには「ゴミ映画」とけなされた『ゲド戦記』を鑑賞。9:20の一回目の上映に合わせて、一人で行きました。館内は8割ぐらいの入りで、今日明日で満員盛況となるのは間違いないのだろうが、ディズニーのセルアニメが崩壊していったように、ジブリも崩壊していくという隠喩に満ちた映画だった。最初に点数を付けるとすれば、50点を付けたい。ジブリのスタッフ、音楽、声優は仕事をしていたと思う。これは150点をあげても良いくらい。ただ、宮崎吾朗監督の仕事があまりにダメすぎて−100点。これで合わせて50点という評価だ。僕はアニメにそこまで詳しいわけではないので、甘い点数だと思うけれども。
ちなみに僕は原作を読んでいません。
以下、レビューをします。(ネタバレありです

  • 物語(ユパの旅)

冒頭、海の上で二匹の竜が戦う。これがどういう意味を持っているのか、作中では明らかにされない。実は、この二匹の竜が戦って、海に落ちた方の一匹がテルーだということに映画を見終わってから気付くのだが、竜などは『ゲド戦記』においては刺身のツマみたいなものなので、どうでもいい。そもそも竜が出てくる意味がないことに鑑賞中の誰もが気付く。後、嵐のときはマストを畳むんじゃないかと思うのだが、そんな描写はない(転覆するぞ)。


舞台は変わって某王国の会議室。色々と災害が起きているが、王様は聡明なので対策を講じようとする。しかし王様は王子に刺し殺されてしまう。王子は王様が持つ魔法の剣を持って逃亡。(何か物凄い理由があってのことだと思わせておいて、王子は不安に呵まれた結果の凶行だった。「世界の均衡がどうとか」という話と関わりがありそうだが、そもそも均衡問題は映画の中で何一つ解決しないので、ただのボンクラの親殺しにしか見えない)


辺境一の剣士ユパは相変わらず旅をしていた。小舟で浜辺に到着すると、そこには巨大な船の廃墟があった。中に入ってみると、骨が散乱している。「ここもまた、腐海に沈んだか」と思ったかどうかは不明だが、その時、ユパは馬に乗って逃げている王子と出会う。王子は狼に追われていた。ユパは魔法の力で王子を助けると、あてのない旅を一緒にする。
ユパと王子は大きな街に到着した。そこは奴隷商人が沢山いて、麻薬も蔓延していた。どうやら世界はどんどん変な方向に突き進んでいて、魔法使いも魔法が使えなくなっているらしい。「人の頭がおかしくなる」とユパは言ったが、それは王子にも当て嵌まっていた。王子は何かから怯えたり、奴隷商人からテルーを助けたりするが、波止場で眠っていたところを奴隷商人に復讐されて、奴隷として護送車に乗せられてしまう。剣は価値がないとして捨てられた(抜きたくても抜けない魔法の剣だが、普通の剣との違いはなさそうだし、物語に絡むことはない)。護送車に乗せられた王子を助けたのはユパだった。ユパは王子を連れて、知り合いの家に行く。

ユパの知り合いは、テナーという女性だった。テナーとユパは過去に何かあったようだが、明らかにされない。テナーはテルーという少女と一緒に住んでいた。テルーは親に虐待を受けて捨てられていたところを、テナーに拾われたらしい(←これが冒頭の竜の戦いなんだけれども、思わせぶりなだけで意味はない)。ユパと王子は、テナーの家で畑を耕す。


テルーは王子を嫌っていた。生きることに無気力な王子をテルーは罵倒し倒すが、助けられたのにその言動はないだろうと誰もが思うはず。ある日、テルーを探しに丘へ行った王子は、ちょうど王子が現れるのを見計らって歌い出すテルーに泣く。「心オナニー」の歌は良い歌なんだけれども、不必要に長い演出が全てだいなしにしていると思うのは僕だけか。テルーと王子はあっさり仲直りする。


一方、奴隷商人を操っていたのは、古い城に住むバイセクシャルの魔法使い「クモ」だった。クモはユパと深い因縁があるようだが、詳細は明らかにされない。明らかにされないといえば、クモは奴隷商人を操って何をしていたのだろう。クモはユパに復讐するため策を巡らす。奴隷商人を使ってテナーの家を荒らしたり、魔法の剣を買いに現れたユパに迫ったりする。


王子は悪い夢を見て魘され、「ここに来れば奴が来る」と呟いて、テナーの家を後にする。が、王子そっくりの影から逃げようとして、クモに囚われてしまう。奴隷商人はテナーを誘拐し、ユパを古い城に誘い出す。

  • 物語(小物の戦い)

クモは王子に麻薬を飲ませ、王子の真の名を聞き出す。この「真の名」がゲド戦記の世界観の根幹だと思うのだが、作中では明らかにされない。ただ、何となく「真の名」を知られたら、操られてしまうらしい。王子の「真の名」は「ルパンネン」というものだったが、噎せて「ルパン」としか聞き取れないのに、良く操れたもんだと思う。


ユパは攫われたテナーを助けるために、古い城に入る。そこで、クモとユパの話が展開される。世界の均衡が失われ、人や自然がおかしくなったのは、人のせいらしい。だが、世界の均衡がどうとかという話は、これ以降出なくなる。クモは王子とユパを戦わせる。ユパは王子を正気に戻すが、城では魔法が使えなくなっていたので、あっさりと捕らえられる(王子が戦う意味なし)。


一方、テルーは王子の影の導きによって、魔法の剣を持って古い城に行く。なんと王子の影は良い奴だった! 王子の影はテルーに真の名を伝える。そして古い城に忍び込んだテルーは、ユパとテナーの処刑が近いことを知り、急いで王子に会う。ここで物語はクモvs王子の小物対決に収斂されていく。盛り上がらない展開の果てに、王子はユパを助けることが出来るのか?! この後の展開は是非映画館で!!

  • 登場人物

ゲド……大賢人には見えない元羊飼い。どう見ても劣化ユパ。彼がいなくなるとトラブルが起き、重要なところで役に立たない。

王子……旅するニート。不吉な自分の影が、実は良い奴だったという腰砕けのオチに、世界の均衡がどうとかという話が実はどうでもいいということに気付かされる。抜けない魔法の剣は外観から「キンタマソード」と名付けられそう。映画の裏テーマは性的不能に陥った王子が旅の果てに、バイセクシャルの魔法使いに掘られそうになるが、辛くも逃げ切って、人外との愛を育む話だ。

テルー……竜(ネタバレ)。でも、どうでもいいところで竜に変身する。何のために人の姿になっているのかという説明は一切無い。命の大切さを説くわりに、悪人をぶち殺すことに躊躇いはない。ちなみに凄く気になるのだが、『となりのトトロ』のさつきと比べて足が遅い。

クモ……悪い魔法使い。過去にゲドに懲らしめられたことがあるらしい。黒いダイダラボッチのドロドロに変化したりするが、実体は老人。老人になってからの往生際の悪さと、テルーのメガフレアを喰らうときの絵づらの汚さに、観客をげんなりさせる。

ウサギ……奴隷商人のリーダー。誰がどう見ても劣化クロトワ。テナーの家に乱入するときの絵は格好良かった。

テナー……薬師。魔法が使えなくなった魔法使いか。過去にゲドと何かあったらしいが、詳細は明らかにされない

おばさん……目障り。くだらない映画の品格をさらに落とす役割を担う。

宮崎吾朗……監督第一作目にして巨匠感を漂わせる。一介の建築コンサルタントジブリのタタリ神になる日も近い??

スタッフ……こんなオチも何もない話に美麗な絵と音楽をつける仕事に頭が下がる。

声優……素人とは言っても、ちゃんと何を言ってるのか分かった。プロを使った方が良いと思うけれども、悪いとも言い切れないのでは? というか、声優が悪い云々以上に、監督の演出がダメなので、声優の素人さが気にならない。

宮崎駿……続きは監督してください。

鈴木プロデューサー……ジブリの大賢人(もしくはクモ)でも映画を救うことができなかった。

押井守……こんな映画の監督にダメ出しされるあなたが不憫でならない。