『ヤバイ経済学』

1990年代から減少したアメリカの犯罪件数は、専門家の誰もが予見できないものだった。ほとんど全ての専門家は「血の雨が降る」と予見したが、実際は緩やかに減少していった。その理由は? 犯罪専門家は主張する「画期的な犯罪対策が」「人口の高齢化が」「麻薬ビジネスのバブルが弾けた」「死刑の増加」などなど、しかし、ある経済学者がデータを元にした分析によって「中絶の合法化」こそが犯罪件数を減らした要因であると突き止めた。愛されない子供が減れば、犯罪件数は減る。
というわけで、超ミクロ経済学の本です。しかも市場分析のようなものではなく、「経済」とは一見関係のない分野の。著者の一人、経済学者のスティーブン・レヴィットは「誘因」が人を動かすと考えていて、独創的な論文を多く書いているようです。これはかなり面白い本でした。経済学の素人でも、興味を引く話題が沢山ある。「通念」が歪める視点を、客観的なデータを元に正すと、世界はここまで変わるのかという感じ。クー・クラックス・クランと不動産屋の共通項は? 力士と教師の共通項は? などなど。
この本には「死刑は犯罪件数の低下に寄与していない」と書かれています。これは死刑制度反対論者の論拠の一つだったと思う(他には「冤罪の可能性」と「人権上の問題」)。が、この主張には前提があって、それは「今のアメリカの死刑制度では」というものだ。著者は「誘因」が犯罪を増やし、「誘因」が犯罪を減らす、と考えている。つまり、めったなことでは死刑にならない今の死刑制度では「誘因」としての効果が薄いというわけだ。刑務所の増設と懲役刑の厳罰化は犯罪件数を減らした。同じように「一人殺せば裁判後即刻死刑」であれば、(リスクが高すぎて)犯罪件数は減るのではないだろうか。僕は基本的に死刑は「刑罰」ではなく「けじめ」であり「国家が国民に示すサービス」のようなものと考えているから、犯罪が増えようが減ろうがどうでもいいのだけれど。

ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する

ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する

文章はもう少し固めでも良かったと思う。アメリカでは100万冊売れたらしい。