『中世の光景』

大河ドラマとかを見ていて、一番「しっかり描けばいいのにな〜」と感じるのは、文化とか風習とか、そういうものに対する見方だと思います。まあ、大河ドラマはドラマなので、人間関係を描ければよいのかもしれませんが、そこはそれ、これはこれで、日本も必要なところに必要な金を注ぎ込んで、時代を感じさせる歴史ドラマを作るべきではないかと思いました。そういうわけで、イメージはあるんだけれど言葉に出来ないよね歴史って、と思っている物書き志望の方々に是非読んでもらいたいのが、今回取り上げる『中世の光景』です。これは朝日選書という朝日新聞が出している新書みたいなもので、この本自体が朝日新聞文芸部編となっているように、なにやら裏読みできそうな雰囲気が漂いますが、内容は真摯に歴史文化を問い掛けているので、左翼も右翼も安心して読むことが出来ます(笑)

中世の光景 (朝日選書)

中世の光景 (朝日選書)

日本の歴史学を語る上で、最重要人物の一人といえるであろう網野善彦氏の「中世社会を考え直す」という文章が読めるということだけでも価値があると思います。日本史を勉強したいという人がいれば、まず網野氏の本を読みなさい、と僕は薦めますね。イメージと実像の差を理解する一番の近道だと思うので。
僕がこの本で出色だと感じたのは、今谷明氏の「王権の周辺」という文章です。ここには室町幕府三代将軍であり、一休さんに無理難題を押し付けることでお茶の間でも親しまれている足利義満が、天皇位簒奪を企て、その寸前まで達成していたことが書かれています。彼が建てた鹿苑寺金閣武家公家仏教の三極の頂に立った足利義満の、さらに上を目指すための「城」だったのは知られていますが、実際、寿命があと五年も長ければ、今の天皇家は存在しなかったと言えそうです。
ここまで書いて思うのは、現在の総理大臣である小泉純一郎織田信長に結びつけるのは、いささか短絡的ではないかということです。皇室典範改正問題で思ったのは、彼は本当は足利義満になりたくて行動しているのではないかという仮説です。足利義満は中国の僧侶をブレーンにして、中国に王と認められたくて天皇位簒奪を画策しました。小泉純一郎にはアメリカがいると言われています。また、国論を二分した総選挙は、擬似南北朝といえなくもないです。……と、類似点を挙げていけば、面白い論説の一つや二つはすぐに書けるかなと思いました。