『ゼロ・グラビティ』

映画館で鑑賞。3D吹き替え版、パンフレットも購入。



【ストーリー】
宇宙に放り出された宇宙飛行士の女性が、必死に地球への帰還を試みる。


【見所】
スペースシャトルがどかーん! 宇宙飛行士が吹っ飛ばされて、絶望的な状況でどうやってサバイバルするのよ!
という絶望的なスタートライン。
そこからの驚きの宇宙サバイバル。
僕だったら百回くらい死んでいると断言できるほど。


【感想】
90点!


年末に観に行く予定だったのだけれど、なかなか足が運べなくてようやく鑑賞。すごいすごいという評判は聴いていたのだけれど、ここまで圧倒されるとは! なんだか、ビュンビュンスペースデブリが飛びまくったり、グルングルン振り回されたり、しかも3Dで、一難去ってまた一難な展開に口から心臓が出るかと思った。


エポックな映画というのは、なかなか観ないのだけれど、今作は確実にエポックメイキングな作品であると言える。特に、この映画の前と後では、宇宙描写のいろいろが全く違ったものになるはず。一番感心したのは、3Dで宇宙描写という、ちょっと考えれば「どうするんだ」と頭を抱えそうなところを、ちゃんと作り上げたところにある。


監督は、僕的ゼロ年代最高のSF映画である『トゥモロー・ワールド』を監督した、アルフォンソ・キュアロン。2013年は、アルフォンソ・キュアロンとか、ギレルモ・デル・トロとか、メキシコ出身の映画監督の才能が輝いた年だと思う。


アルフォンソ・キュアロンと言えば、とんでもない状況を長回しで撮影するとんでもない技巧の持ち主というイメージなんだけれど、今作ではそれが行き着くところまで行った感じ。『トゥモロー・ワールド』の、アパートの銃撃戦での長回しも死ぬかと思うほどの緊張感だったのだけれど、今作ではもはや名人芸に達している。長回しができるということは徹底した絵作りができるというわけで、今回の宇宙空間という舞台設定と物語は、彼しかできない絵だと思う。


スゴいなぁと思ったのは、冒頭の長回しのシークエンスもそうだけれど、デブリで主人公の女性飛行士ライアンが吹っ飛ばされて、グルングルン回る中で、ライアンの顔のアップがいつのまにかカメラアングルがヘルメットのガラスを通過して、宇宙空間を観るライアンの主観映像になったところ。そこから、また客観的なカメラアングルになる。この辺りのカメラワークはCG全盛の時代だからこそできる絵なのだけれど、サスペンス性がどんどん高まってくる。上手い! スゴい上手い! 上手いよねぇ。


あと、今までの宇宙モノのオマージュがたくさんあるのも語りがいのある映画にしている。『2001年宇宙の旅』もそうだけれど、消火器を使って中国の宇宙船に行くところは『ウォーリー』かよ! と思った。『ウォーリー』はかなり作り手が意識しているような気がする。ラストの地球に戻ったライアンが立ち上がるところも含めて。3Dの視覚効果をとことん追求した画面も良かった。特に、ISSが大破する場面の、破片が飛び散りまくる場面とか、ライアンの目から涙が零れるところとか、ISS内でガスバーナーが火炎車みたいに飛びまくるところが。


役者は、サンドラ・ブロックジョージ・クルーニーも二人とも非常に良かった。特に、ジョージ・クルーニー! ジョージ・クルーニーという役者の良い部分が、これほど活用できた映画も珍しい。心に傷を負ったライアンをパニックから救い、的確にサバイバルしていこうとする姿や、一端映画から退場した後で、まさかの再登場したときの「これで勝てる」と観客に思わせる兄貴な感じがビンビンに伝わってきた。アカデミー賞助演男優賞は確定じゃないかなぁ。


ストーリーについては物足りないと感じる部分があるものの、90分という上映時間では文句の言いようもないと思う。必要なことを必要なところだけ描ききった感じ。ライアンの娘が「鬼ごっこで転んで死んだ」という設定は、ライアン自身がとんでもない状況下でも生き残ってしまうことの、「人は簡単に死ぬし、簡単に死なない」という感覚的なロジックになっている。また、ストーリー全体が、「虚無からの誕生」を描いているのも良かった。ライアンは地上に帰還したことで、二度目の誕生を経験したのだねぇ。


パンフレットも充実していて、町山智浩氏の解説文や日本人女性宇宙飛行士の対談など、読み応えのある内容だった。僕は映画を観る前にパンフレットをパラパラと観るのだけれど、そこでの解説文や内容で、だいたいの映画の「格」というのが分かるなぁと。特に、監督のインタビューでは、映画ができる二年前まで技術がなくて撮影が難しかったとか、プロダクション・ノートであかされる革新的な技術の数々は、興味深いものがあった。革新的なワイヤー技術を開発して無重力を表現していたのか……とか。


個人的には、『風立ちぬ』以上に「生きねば!」と思った映画。映画館で絶対に観るべきだと思う。