『ザ・バッド』

スカパーで鑑賞。


ザ・バッド [DVD]

ザ・バッド [DVD]


【ストーリー】
年老いた美術館警備員の三人が、デンマークに移送されるお気に入りの美術品を盗み出す。


【見所】
クリストファー・ウォーケン
モーガン・フリーマン
ウィリアム・H・メイシー
平均年齢高めの脱力系クライムサスペンス。


【感想】
ポスターのビジュアルや、『ザ・バッド』という邦題からして、マーケティング的には『RED/レッド』を意識しまくりだけれど、中身は老体に鞭打つ三人のギャグ要素満載のクライムサスペンスだった。というか、サスペンス感はほとんどない。原題は『The Maiden Heist』で、訳すなら『処女強盗』って感じ。これは言えて妙な題名なので、もうちょっと邦題も頑張って、おしゃれな感じにできなかったかなぁと思ってしまう。


監督は『ビルとテッドの地獄旅行』のピーター・ヒューイットフィルモグラフィーを観てみたら、小気味よいコメディ映画を多く撮影している監督だけれど、僕自身ははじめて鑑賞する監督の作品だった。『ビルとテッドの地獄旅行』は、キアヌ・リーブスの最高傑作との呼び声高い作品なので、かなり力量のある人だと思う。この映画でも、俳優の長所を活かした内容になっているし。


「孤独な少女」という絵画に夢中な、美術館の老警備員が、その絵がコペンハーゲンに行ってしまうことに憤って、仲間と共に強奪計画をたてるが……というのがだいたいの内容。そこに、長年連れ添ってきた妻とのフロリダ旅行の話とかが、絡むようで絡まなかったりするが、ストーリー自体は纏まっている。上映時間が90分とコンパクトなので、キャラクターの背景等は最小限に抑えられていて、どんどんテンポよく物事が進んでいく。上映時間が短い作品っていいね! ダラダラ続く映画よりも断然良い。


でも、クライムサスペンス的な盛り上がりが、もうひと山ふた山あったほうが面白かったと思う。例えば、フロリダ旅行に行くつもりの妻の金を盗んだこととか、あれはもっと「どうにもならない」展開になったような気がするんだけれどね。妻が館長に直訴してからの展開も、中途半端に流れてしまうし。同様に、クリストファー・ウォーケンが贋作を頼むところも、もう少し波乱があってもよかったのでは? まあ、90分で映画を収めることを優先したのだろうと思うけれど。


役者は、クリストファー・ウォーケンモーガン・フリーマンウィリアム・H・メイシーがいつもの演技をしているので、安心して観ていられる。クリストファー・ウォーケンは老人になって、丸い役柄が似合うようになってきたなぁと再確認した。「妻の尻に敷かれる、善良で不器用な白人の老人」を演じさせれば、彼の右に出る役者はいないように思える。オープニングのムチャな銃撃戦も笑えたし。


ギャグのほとんどはウィリアム・H・メイシーが担当していて、後半はほとんど全裸での演技が続く。あの歳でマッチョな肉体はすごいと思ったが、爆笑とまではいかなかったのが惜しいところ。主要登場人物が三人とも「ボケ」でつっこみ役がいないんだよね。これ、役柄的に言えば、妻が計画に絡んだら、もっと面白くなったと思う。


それはともかく、美術館映画としては、いろいろと面白い部分もあった。例えば、警備員が美術品の移送を手伝ったり(日本では考えられない)、キュレーターと警備員の関係については、そうだろうなーと思う部分が多々ある。警備員のほうが常設展示の絵を愛していて、キュレーターはそうでもないというのは、ありえる話だ。


映像的には工夫している部分がたくさんあった。最後の窮地を脱する方法が口説き落とし、というのは賛否が別れるところか。フロリダで妻が「孤独な少女」そっくりに見えた、というくだりも、その前段階でいろいろあれば、もっと効果的だと思うんだけれどね。でも、全体的に、観てよかったと思える映画。気軽に楽しめれば映画は及第点だよね。