私撰SF映画ベスト10

ランキングの時間だよ〜


男の魂に火をつけろ! 〜SF映画ベストテン受付中〜


というイベントがありまして、そこに参加してみます!


でも、知ったのは「SF映画ベストテン」を選んでみたという記事からなので、僕も「この20年のSF映画でのベスト10」を発表したい。まあ、それ以前のSF映画は古典的名作ばかりになるので、ちょっと食指が動かないな〜という部分もあるわけで。


さて、ここ20年に公開されたSF映画ベスト10を選ぶ……ということで選んでみたけれども、僕はそこまで観ていないなぁということに気付いて、10作品選ぶのが難しかった。一応、「幅広く」「アニメ含む」という括りで選んでみたのだけれど、「アメコミヒーローものを含む」かどうかは最後まで悩んだ。でも、アメコミヒーローものをSFでないとするなら、何をSFとするんですか! という声が聞こえて、とりあえず含む方向で10作品選んでみた。


選考の基準は、「凄かった!」と自分が思えたSF映画で、「監督1人に1作品」で、何かしらSF映画としてエポックなものや、意味がある作品を選んだ。というわけなので、僕が観ていないSF映画は選外になってしまうのだけれど、たとえばラジニカーント主演のインド映画『ロボット』なんかは、見ていたら絶対に非ハリウッド圏のSF映画として入選していたと思う。あと、「これはSFだろうか?」と悩んだ作品は選外にしている。『ファイト・クラブ』とか『アンブレイカブル』 とか。


順位は、まったくの気分で。選んでいて思うのは、2000年前後がSF映画の黄金期だったな〜ということと、今がまた新しい黄金期に入りつつあるという2点だったりする。特に、今はSFXの発展と、情報の蓄積によって、びっくりするような才能がどんどん出てくる。そのなかで、日本の取り残され感はちょっと気になる。日本映画でハリウッドに対抗しうるSFを作るのは、アニメ以外だと難しいかもしれない。


10位:トゥルーマン・ショー

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社会派SF映画で知られるアンドリュー・ニコル脚本作品。通好みの『ガタカ』とどっちを入選させるか悩んだけれども、SFとしてどっちが未来を映し出していたかというと、断然『トゥルーマン・ショー』のほうだと思う。『ガタカ』はストーリーもテーマ性もいいのだけれど、センス・オブ・ワンダーかどうかで言うと、ちょっとSF的に弱いような気がする。


生まれたときから、なに不自由なく成長して生活してきた男が、「トゥルーマン・ショー」というリアリティ番組の主人公だった、という内容は今になってみると普通にありえる内容だと思う。映画では優しい牢獄から脱出することを「正義」として描いているが、今の世の中は、そういう衆人環視のモルモットになりたいと思う人も多いだろうし。Youtubeが登場以前のメディアと人の立ち位置と問題意識が垣間見える映画として、特筆するべきSF映画だと思う。




9位:アイアンマン

最後まで入選させるかどうか悩んだ作品。アメコミ枠ということで、あえて選ぶのであれば、やっぱりマーブルの『アベンジャーズ』という企画は、映画のクオリティ的にも商業的にもすごいものだったと思う。地位も名誉も、金も女も不自由ない男が、「ないものは自分で創ろう!」とがんばる姿は、現在のメイカーズの流行を先取りするものだった。ちゃんとものづくりの試行錯誤を描いたSF映画って少ないので、そういう意味でも評価が高い。

死の商人だったトニー・スタークが、戦争と武器の現実を知って、改心するという内容もハリウッド的な古き良き価値観のリバイバルで小気味よいし、最後に「アイアンマンは俺だ!」というラストも、これまで正体を隠していたスーパーヒーローから、正体を隠さないスーパーヒーローへ可能性を広げたと思う。



8位:エンジェル・ウォーズ

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『300』や『ウォッチメン』で好事家も唸らせたザック・スナイダーが、趣味に走ってみんなを呆れさせた『エンジェル・ウォーズ』なんだけれど、僕はその中二病な世界観を含めて大好き。「ティーンの女の子が日本刀振るうだけで最高じゃないですか!」というザック・スナイダーの主張に完全同意できるので。なので、この作品については完全に僕の好みであって、世評とかは全然関係ないです。でも、SF作品として見た場合、侮れない奥の深さがある映画だと思う。

ザック・スナイダーはハリウッドの映画監督としては、アメコミの世界観を再現できる(映画ならではのアレンジをしなくても成立させられる)という稀有なスキルを持った人で、コミックを読むときのリズム感と映画を観るリズム感がシンクロしている。そこで漫画を読むときの心地よさが、映画でも感じられてマニアにも受け入れられるものになっているのだと思う。

ここ20年のSF映画として『エンジェル・ウォーズ』を入れたのは、この作品がハリウッド映画では最もセカイ系をフューチャーしているからだ。SFには「社会的な問題を、SF的手法で解決する」という解釈があるけれども、それがセカイ系によって「個人的な問題を、SF的手法で解決する」という解釈の広がりが与えられた。で、それを真正面から映像化しているのが、実質少女の頭の中でしか進行しない『エンジェル・ウォーズ』なのだと思う。



7位:アバター

3D映画の復権という、よくよく考えてみると「必要なのかな〜」というニーズを生み出した功績は凄いものがある。僕個人は、3D映画ってメンズデーの割引もないから、余計なことをしてくれたのうって気持ちしかないのだけれど、やっぱり20年間で選ぶSF映画としては選ばずにはいられない作品。

この映画の現代性は二つあって、そのうちの一つが「ゲームの世界に没入して、現実を忘れるお前ら」を描き、そしてもう一つが「そんなお前らが最終的には勝利するんだぜ」という、『マトリックス』以来の現実讃歌を真っ向から否定しているところにある。これは、イラク戦争によって『ランボー』みたいにPTSDを負って生きる場所を失った人たちが社会問題になっていることや、『セカンドライフ』などの登場によってネットゲームが市場を獲得したことなどがあると思う。「行って帰る」ことで成長していた時代の終わりの映画だ。



6位:時をかける少女

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日本アニメ枠。ベスト10を選ぶのであれば、それなりにエポックな作品を挙げたいので、宮崎駿押井守かを挙げたいところだけれど、宮崎駿は20年SF映画を作っていないし、押井守の『攻殻機動隊』は他の入選作品(『アバター』ともう1つ)とかぶるので選外。『エヴァンゲリオン』はテレビ版のほうがエポックなので、選ぶとなると細田守今敏か……という感じになってしまった。観ていたら、たぶん新海誠の『ほしのこえ』か『秒速5センチメートル』を入選させていたと思う。

でも、『時をかける少女』はここ20年のSF映画の中でも、アニメ映画の中でも屈指の作品だ。この作品はアニメ映画の巨大な壁だったジブリを、宮崎駿が『ゲド戦記』にかかわっていないということがあったとしても、ついに破壊できた作品という点で特筆できるだろうし、細田守監督が新しい国民的なアニメーション作家として認知された作品としても重要だと思う。

『パプリカ』にしても『時をかける少女』にしても、筒井康孝の作品力って世界に通じるな〜と思った。何度か映画化されている作品だけれど、21世紀のアニメ映画としてリニューアルされても、古臭さが感じられないというのは凄い。万人に愛されて、純粋に楽しめるSF映画として優れている。ディティールの描き方も上手くて、「タイムスリップできたら、こういうくだらないことに使っちゃうよね」という楽しさがあった。


5位:パシフィック・リム

巨大ロボットが巨大怪獣と戦って上海大破壊! というのは(技術的な制約と、ロボットアニメ的な文脈によって)日本のアニメか特撮でしかできないだろうな〜と思っていたら、ギレルモ・デルトロがそのエッセンスを全部出し切って映画化してしまったという作品。これを観たとき、日本のアニメ映画が持っていたアドバンテージがなくなってしまったと唖然とした。

SF映画の到達点を語る上で外せない作品であることは間違いないし、日本のアニメ文化を自分のものにしたハリウッドの映画監督が、ついに本家を捩り伏せるような映画を作り上げたという点で入選。この映画を見たあとで、日本的な「おやくそく」がはたして通用するのだろうか? という不安もあるし、この作品を受けて日本側の回答となる映画もできたらいいなという期待もある。





4位:マトリックス

公開されたときはなにもかもが新しくて、ファッションから映像からストーリーにいたるまで多大な影響を与えた作品。たぶん、この20年のSF映画ベスト10を選ぶときに、これを選外にするのはありえないと思う。この世界が仮想現実で、実際には別の世界があるというのは、『マトリックス』以降雨後のタケノコのようにでてきたし、革新的な撮影方法、お手軽にカンフーの達人になれるという「脳内ダウンロード」など、サイバーパンク映画の決定版といえる内容だと思う。

作品としては『攻殻機動隊』にかなりインスパイアされているけれども、それを実写映画として不自然でないレベルに仕上げた功績は多大なものがあるし、ハリウッドと日本のアニメ・特撮映画の距離をグッと縮めた作品というだけでも入選理由になる。2作目と3作目がちょっと期待外れだったのと、さすがに真似されすぎて賞味期限が切れた感があるのが残念。


予告映像はありませんでした。


3位:WALL-E

ウォーリー [DVD]

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アメリカのアニメ映画……つまり、ピクサー枠。といっても、『アイアン・ジャイアント』とどっちにするか超悩んだ。SF映画としてもアニメ映画としても『アイアン・ジャイアント』は傑作。でも、3Dアニメの到達点として、『WALL-E』を挙げないわけにはいかないだろうなと。意思を持っている掃除ロボットのWALL-Eが、宇宙からやってきた女性型(?)ロボットに恋をするという、藤子・F・不二雄みたいな世界観なんだけれども、言葉に頼らないストーリーテリングが傑出している。

3Dアニメのつるつるした感じで「リアル」をどう表現するかについて、セリフというのは重要だと思うのだけれど、この映画の前半はほとんど機械音だけで表現していて、それで「悲しい」とか「好き」とかの感情が伝わるのが凄いなぁと。SFとしても、かなり質の高い内容になっていて、漂流する人類の里帰りと、土に根ざした再文明化のラストが泣ける。エンドロールのビジュアルとかも、絵画表現の蓄積を踏まえたものになっていて、作り手の気概が感じられるし。

日進月歩で新しいことに表現するピクサーが、一番SFらしいということで。



2位:宇宙戦争

宇宙戦争 [DVD]

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SF映画の重要な要素である「ビジュアル」で、この映画は突出している。

スピルバーグってとんでもない映像作家だなぁと思った映画。あまりにハリウッドのメインストリームにいる映画監督なので、ややもすると甘く見てしまうのだけれど、渾身の右ストレートを打ち込まれて悶絶するような映像に圧倒されてしまった。トライポットによる街の大破壊! 叫ぶダコタ・ファニング! 走る火炎列車! 降り注ぐ布! と強烈な地獄ビジュアルがこれでもかというくらいに続く。たぶん、映画館で見てたら吐いていた。

「阿鼻叫喚」という映像のニュースタンダードを作ったスピルバーグは、『プライベート・ライアン』での地獄の戦場描写で戦争映画のニュースタンダードを作ったように、新しい地平を切り開こうとしたのだろうか。でも、実際にできたものは、スピルバーグでしか作りえない映画になった。賛否両論になるのもうなずけるけれども、天才の映像表現を革新しようという試みこそ評価されるべきところだと思う。


1位:トゥモロー・ワールド

現代性、社会批評性、希望、ビジュアル、SF要素すべてにおいて満点。ここ20年間で最高のSF映画を選ぶとするなら、この傑作映画を挙げざるをえない。近未来に子供が生まれなくなった世界で、何年ぶりかに発見された妊婦を守る男の物語。人心の荒廃が極まった社会で、新しく生まれる命を巡るストーリーが激しく心を揺さぶる。

移民や社会不安という現代的なテーマを、SFという表現で端的に示していて、さらに血で血を洗うような銃撃戦が、SF的な表現で「停止」してしまうのが見所。長回しによって緊張感が高まるクライマックスで、赤ちゃんの泣き声一つで「殺しあってる場合じゃねぇ!」と全員の動きが止まる。その奇跡の描写と、すぐに銃撃戦が再開してしまう現実の描写が凄かった。ここ20年の世界状況を合わせ鏡にした内容は、SF映画のベストとして自信を持って勧められる映画だ。





ということで、10作品を選んでみた。観ていない作品として、たとえば『遊星からの物体X』とか『第9地区』とかが選外になってしまったので、ランキングとしては非常に不完全なものになっているけれども、そこはご容赦を。クリストファー・ノーランの『インセプション』は惜しくも選外。『ヴァニラ・スカイ』とか類似作もあるし、この系統は『マトリックス』で一つにしたかったので。それと、『ダークナイト』がSFかそうでないのか問題に引きずられた面がある。

個人的には、「B級映画枠」でなにか一つ入れたかったかなぁと思う。これこそ、あまりSF映画を観ていないという露骨な影響を受けたところ。SF映画というと、とにかく巨大バジェットじゃないと良いものが作れないというイメージがあるけれども、アイデアひとつでどうにでもなるという意味で。一番に思い浮かんだのが『CUBE』なんだけれど、個人的には楽しめなかったので選外になった。

非ハリウッド圏の実写SF映画もなにか1つ入れたかった。観ていないので選外になった『ロボット』とか『トロル・ハンター』とか『アイアン・スカイ』とか。リュック・ベッソンの『フィフス・エレメント』も、バンド・デシネの世界観ということから入選も考えたのだけれど、映画の出来はそれほどでもないので、『エンジェル・ウォーズ』が勝った。

20年間という括りを考えた場合、やっぱり今の時代を先取りしたものか、社会批評性に優れたものか、チャレンジ精神にあふれたものを中心に選ぶべきだし、自分が楽しめたかどうかが重要だと思う。なので、ところどころ「あれ?」と思うものはあるかもしれないけれど、納得度の高いランキングにはなったはず。これからの20年は、もっと別の社会状況や問題意識による作品が出てくるのかなぁと、このランキングを作りながら楽しみになってきた。

ちなみに、オールタイムSF映画ベストを選ぶとするなら、1位『スターウォーズ・エピソード4』、2位『天空の城ラピュタ』、3位『トゥモロー・ワールド』、4位『アキラ』、5位『宇宙戦争』、6位『WALL−E』、7位『マトリックス』、8位『風の谷のナウシカ』、9位『スターウォーズ・エピソード6』、10位『パシフィック・リム』です。