『マーキュリー・ライジング』

スカパーで鑑賞。



【ストーリー】
NSAが大金を投じて開発した暗号「マーキュリー」が、自閉症の少年によって解読されてしまう。国家の安全保障のために、その少年を暗殺しようとするNSAと、少年を保護したFBIの捜査官との戦いを描く。


【見所】
NSAの藪蛇さ。
鬼に金棒、ブルース・ウィリスに少年といったところか。


【感想】
高度な暗号が天才児によって解読されてしまった、という話は以前聞いたことがあって、たぶんこの映画もそのニュースを元にしていると思う。


ブルース・ウィリス主演映画としては、『フィフス・エレメント』の後、『アルマゲドン』と同じ年、『シックス・センス』の前という、絶頂期の映画で『ダイ・ハード』以来のカウボーイキャラから、もうちょっと複雑な演技もできる役者へとイメージチェンジする最中の映画になっている。この映画を観たときは「『シックス・センス』と演技が同じじゃないか!」と思ったけれども、よくよく調べてみると、『シックス・センス』のほうが『マーキュリー・ライジング』を踏襲しているのだと分かった。


監督はハロルド・ベッカーという人。wikiを観てみると、アル・パチーノ主演映画とかの監督も務めているので、実力ある人だとは思うのだけれど、近年は監督をしていない模様。『マーキュリー・ライジング』を観てみると、確かな演出力とストーリーテリングが感じられるので、監督業をさせてもらえないのは体調を崩しているのか、引退しているのかのどちらかだと思う。


国家の安全保障のために少年を付け狙うNSA、というのは、アメリカの実在の組織としてどうなんだと言わざるをえない設定なのだけれど、ほぼ同時期に『エネミー・オブ・アメリカ』も封切られているので、個人のプライバシーと国家の安全という二つの価値観が揺れ動いていた時期なのだと思う。これが911を受けると、そんな甘いことを言っていられないという風潮になったのは、『エネミー・オブ・アメリカ』の感想でも書いた。でも、この時代を描くことは、クリントン政権時のおおらかさと、唯一の超大国になったアメリカの最後の輝きの記憶になると思う。


ストーリーは、実際のところNSAが無視していれば全て丸く収まったような気がする。実際、ああいうことがあって子供が電話を掛けても「イタズラじゃないの?」の一言で終わってしまう可能性は高い。でも、その難点を脚本で切り抜けたのはさすがハリウッドだと思った。組織を描ける人間が脚本を書いているから、「イタズラじゃないの?」というもっともな意見に、「でも報告しないとまずい」と職員に言わせて、そのあとはめまぐるしく物語が展開していく。


物語としては、新鮮味に欠ける部分はあるけれども、ちゃんとしたストーリーテリングで最後までハラハラドキドキさせてくれる映画だった。ブルース・ウィリスFBIや善意の人といった頼れる人が多くて、『エネミー・オブ・アメリカ』よりも孤立無援感がないのは、一人で国家と戦うという荒唐無稽さを排除しているからだろうなと。まあ、保護する子供が子供だから、孤立無援じゃあ守れないのは確かだよね。