『激突!』

スカパーで鑑賞。



【ストーリー】
平凡なサラリーマンが、道で怪物トラックに追われまくる。


【見所】
スピルバーグの演出力!
長編映画デビュー作で、この卓越した手腕に驚く。


【感想】
知らない人は、たぶんいないだろうと思うほど、もはや古典として認知されているであろう作品。これ、宇宙人とかに見せても「怖〜い」という反応を呼ぶのではあるまいか。平凡なサラリーマンがカリフォルニアに向かう途中、巨大なトラックに追い掛けられる、という単純な内容。それをスピルバーグ超弩級の演出力で1級の作品に仕上がっている。


でも、中盤まではグダグダとした話が続くんだよね〜。あの、レストランで思考を巡らせる辺りまで。でも、前半で平凡なサラリーマンという印象を観客に植え付けているので、中盤以降の巨大トラックが怪物性を露わにする辺りから俄然盛り上がってくる。僕は中盤以降の、トラックが付かず離れずを繰り返して、主人公のデビッドを追い詰めていくところが好きなんだよね。この映画、怪物トラックの運転手は姿を見せないのとは対照的に、主人公はルックスからして弱さの塊みたいな感じなのも良い。そんな彼でも、ラストの対決は雄々しく見えるし。


で、スピルバーグの演出については、もう本当に感心してしまう。トラックが生き物のように描かれている、というのは誰もが感じることだけれど、中身の運転手が見えそうで見えない感じとか、レストランの場面の誰もが怪しそうに見えるところとか、ガソリンスタンドでオバサンが蛇やトカゲを飼っているところとか、「スピルバーグっぽい!」と感じられる場面が多々あった。あと、なぜか荒野で停車しているスクールバスの、クソガキ描写はまさにそれ。バンパーが引っ掛かって立ち往生する場面の、主人公の必至さと、スクールバスを助けてあげるトラックの対比も面白いし。


wikiを読んでみると、あのトラックは主人公の車に追い越されて怒ってああいうことをしたのではなく、各地で同じようなことをしている殺人トラックという設定があるらしい。ナンバープレートが幾つもある理由がそれとのこと。だから、あのトラックは生き物でもあり、死神でもあるように性格付けがされている。


こういう作品を観て思うのは、「ストーリー」と「語り方」は別のものだということ。単純なストーリーだからダメなのか、というと全然そんなことはなくて、語り方がフレッシュだとここまで面白くなる。逆に、複雑なストーリーでも、語り方が平々凡々だと観客は退屈してしまうだろう。「トラックに追い回される」という一言で説明できるストーリーを、ここまで悪夢めいた話に出来るスピルバーグの手腕には感服するし、こういうことは他のクリエイティブなところでも通用すると思う。


あと、ちょっと思ったのだけれど、ラストの対決に勝利した主人公も、あんな場所で自動車を失ってしまっては生きてられないような気がする。あの崖に向かって石を投げるラストって、「勝ったはいいけれど、俺もお仕舞いだよ〜」という諦めのようなものが感じられて、なんだか物悲しかった。