『桐島、部活やめるってよ』

iTunesで鑑賞。
「僕たちは、この世界で生きていくしかないんだ」
というセリフに殺られた。
「生きていけるよ!」
と、今なら僕は言えるから。

桐島、部活やめるってよ(DVD2枚組)

桐島、部活やめるってよ(DVD2枚組)


【ストーリー】
教室のヒーロー、桐島が部活を辞めたことで、みんなが右往左往する。


【見所】
内臓が身悶えする高校描写!
神木隆之介さんの演技はちょっと凄いと思った。そして、監督の吉田大八さんの的確なストーリーテリング力。高校という「世界」がこれほど苦しいものなのか、というのを思い出させられた。そして、去年の邦画はこの映画を中心に回転していたと言ってもいいと思うほど傑作。


【感想】
原作は未読。


宇多丸師匠のシネマハスラーを事前に聴いていたので、この映画がヤバいということは頭に入っていた。なので、このハードルが上がりまくった状態で観て、ガッカリしないだろうか……と思ったけれども、そんなことは全然杞憂だった。原作のエッセンスを凝縮して、監督独自の解釈で料理しきった!というのが非常に良く伝わった。原作がある映画がやりがちな、「ストーリーの筋を追うだけ」な感じには全くなっていない稀有な作品だと思う。


僕にとって高校時代は18年前で、しかも映画で描かれているような関係性からは外れていた(という意味では前田を酷くしたみたいな)感じだったので、かなり客観的に観ることができたものの、これは胸に突き刺さってしまう人は多いはず。僕だって前田や映画部の面々は自分を傍目から観ているような恥ずかしさがあった。だからこそ、屋上でのゾンビ襲撃シーンは、自分のクリエイティブな道を模索してきた自負がカタルシスを覚えるんだよね〜


でも、キモはそこよりも、その後の映画部員とのセリフの確認のところで、「俺たちはこの世界で生きていかないといけないんだ」という言葉が出るところ!そうだよ!俺たちはこの世界で生きていかないといけないんだよ!宏樹は多分、このセリフを耳にして、自分の動揺が明確なものになってしまうんだけれども、僕はそこからの前田と宏樹のやりとりを観ながら、「頑張れ!」と応援しているような気持ちになった。


眩しく輝く前田と、太陽を背にして、カメラの中で小さくフェードアウトする宏樹の対比とか、ラストシーンは本当に語り出すと止まらなくなってしまう。個々の話があそこに収斂する感じも良かったし、あのあと彼ら彼女らの関係がどうなるのかも、映画がスッパリと終わって想像を巡らせてしまう。


一方、宏樹や女子たちの描写は、僕にはちょっと飲み込みづらかった。特に、桐島と付き合っている梨紗は、ちょっと何を考えているのか分からない人になっていると思う。部活を辞めたことくらいで、なんであんなに動揺するのか。ああいうものなのかもしれないけれど、例えばアメリカの学園ドラマにあるような「プロムに出るためには云々」みたいな説明がないので。でも、強者の薄さが露わになってしまうラストで、ちゃんとゾンビに食い殺されているからいいのか。


あと、やっぱり映画部は「映画秘宝」観てないとね!映画リテラシー的に、非常にまっとうな描き方がされていると思う。この辺りは小説よりも数倍優れているところだと思う。前田は原作よりも数倍ショボく描写されているんだねぇ。そこが良かった。


エンドロールの歌も良かった。とにかく、凄い破壊力を持った作品だと思う。