『イングロリアス・バスターズ』

DVDで鑑賞。



【ストーリー】
ナチSSに家族を殺された少女ショシャナが、ナチの高官が集まる映画館を火の海にする。
三幕構成でなく五章構成になっているし、丁寧に章を分けてくれているので、ここは割愛。


【見所】
クエンティン・タランティーノの語り口。はっとさせられるシーン。ゴミのように人が死ぬ地下酒場と『ドイツの宵』。


【感想】
クエンティン・ラタンティーのって映画総体ではそんなに完成度も高くないし、面白さも標準をちょっと上回るくらいの作品を出してくるのだけれども、場面単位では観客をハッとさせるシーンを織り交ぜてくるので油断ができない。この傾向は特に『キル・ビル』以降の「ちょっとマニアックな映画文化やメソッド」を土台にした作品に顕著で、この作品でもオープニングの西部劇みたいな始まりかたから、バスターズのムチャクチャさ、ランダ大佐の嫌さ、『国民の誇り』の国民映画っぽさなど、本当に映画に精通した人間の遊び心が伝わってくる。


物語はバスターズの秘密工作と、ショシャナの計画が交互に語られていく構成になっているけれども、人がゴミのように死んでいく展開は誰が生き残り誰が死ぬのかの推測を一切許さないものにしている。この映画のクレバーなところは史実と映画の見極めがきっちりとできているところで、「映画だからぶっ殺しとけ」というタランティーノのアイデアによってヒトラー映画史上に残る仰天オチ「暗殺は成功した!」という流れになっているところ。これはかなり冒険していて、しかもカタルシス的にはこの上ないものだと思う。ユダヤ人が多く映画館に詰めかけたというのも分かる。


登場人物はタランティーノっぽい面々が揃っていて良かった。唯一、ヒトラーが似ていない(『ヒトラー 〜最期の12日間〜』のブルーノ・ガンツを見慣れているというアレもあるけれど)ことくらいか。バスターズのレイン中尉とユダヤの熊は本当に良いキャラだと思う。ユダヤの熊が暗闇からバットを持って現れるシーンの「え?」という感じからの、撲殺シーンにビックリするし、レイン中尉役のブラッド・ピットは曲者っぽさを上手く表現できていた。この映画で一番強烈なキャラであるランダ大佐も、オープニングのユダヤ人狩りの場面から、ゲッベルズとの昼食で突然登場するときの「ランダー!」→ダンダンダン!(効果音)の演出の仕方など、場を持っていくキャラの魅力が出せていたと思う。


ただ、ランダ大佐は切れ者ではあるけれど、物語の展開上はそんなに切れ者描写はないよねと思った。むしろ切れ者っぽかったのは、地下酒場のシーンでバスターズたちの正体を見破ったSSの人のような。あの邪魔者っぽい行動と、アクセントやジェスチャーで疑惑を確信に変えるところなどは、ランダ大佐以上のものを感じた。


ラストに上映されるナチスの国民映画『国民の誇り』も良かった。DVDの特典映像にあったフルバージョンを観てみると、古くさい国民映画っぽいところと現代的な戦争描写、それにタランティーノの遊び心が随所に現れていたと思う。下手な戦艦ポチョムキンオマージュや、テキサスタワー乱射事件を思わせるライフリング、積み上がる死体の山、床に掘るハーケンクロイツなど、やりすぎなところが良かった。


予測はできる物語ではあるけれど、「史実はこうだったけれど」という観客の先入観を乗り越えるラストの衝撃で、予測を超えた物語に昇華していると思う。そして、きっちり落とし前をつけるところなど、映画的な面白さもふんだんにあったと思う。とにかくナチスが皆殺しになって「スカッとした!」と思いたい人にオススメ。