『狼よさらば』

スカパーで鑑賞。主演、チャールズ・ブロンソン


狼よさらば [DVD]

狼よさらば [DVD]


【ストーリー】
街のダニどもは俺がぶっ殺す!


【感想】
ビジランテ(自警団)ものの嚆矢となった作品。強盗に妻を殺され、娘もレイプされ精神に傷を負わされてしまった漢が、32口径のピストルを手に街のダニどもを撃ち殺しまくるという内容。現代では『ダークナイト』や『狼たちの処刑台』などにこの精神は受け継がれている。犯罪が多発していた当時の米国社会の問題を、エンターテイメント的にも満足させつつ告発しているが、やはりこれは当時の混沌とした世相を背景にしてなりたっている作品だった。今では情報も倫理観も発達しているし、警察の対応も段違いなので、この路線を成立させるためにはかなりの苦労が必要だろうけれど、そこは『狼よさらば』の場合、チャールズ・ブロンソンの説得力ある顔と肉体だけで成り立たせている。


主人公が建築技師なだけに自宅の内装はかなりポップだったり、BGMにブラックミュージックが使われていたりと、70年代アメリカを堪能できる内容になっている。今観ると、ビジランテものという新しい分野に踏み出した作品だけに、かなり展開に荒っぽいところが見える。特に、チャールズ・ブロンソンが「アマチュア刑事」をはじめてダニ殺しをすることによって、目に見えて犯罪件数が減少してしまい警察がその対応に苦慮するところなどは、今の価値観では考えられないところだと思う。基本的には西部劇を現代に置き換えた作品であることは明白で、主人公が警視に諭されて街を出るところや、最後の獲物と対峙するところなどは、その西部劇メソッドが元になっている。


善良な市民として生きてきた中年男性が、眠っていた狼の血を目覚めさせてしまい、街のダニを駆除するようになるくだりは男なら奮い立つこと必至の格好良さだと思う。チャールズ・ブロンソンに銃を持たせたら、これはもうニューヨークの街全体が彼を応援せざるを得ないという話です。彼の活動によって、犯罪に怯えていた人々が勇気を取り戻し(でも、ちょっと過剰防衛になりがち)、「アマチュア刑事」の新聞記事やテレビを観て、一人悦に入るブロンソンの姿に「分かる! 分かるよ!」とシンパシーを感じてしまいます。最初の殺人を犯したときにゲロをするところも後戻りできない感があって良い。


でも、やはり古い映画なので「ハンドガンが百発百中」だったり、あまりに簡単に人を殺しまくったり、警察にばれるかもしれないけれど我が道を行く〜というサスペンス部分は練り込みが必要だったかなと思う。ただ、この作品が大ヒットしたおかげで、ビジランテもの(狼もの)というジャンルができあがって、どんどん洗練されていくので、映画史に残る傑作であることに間違いはない。