『ファイト・クラブ』

IKEAの新宮店が開店した記念で。



デヴィット・フィンチャー監督、ブラッド・ピットエドワード・ノートン主演。原作はチャック・パラニューク。単調な会社勤めの人生に魂を腐らせていた主人公が、野性的な男タイラー・ダーデンと出会い、非合法のボクシングクラブを結成。クラブは順調に発展するが、タイラーは暴走をはじめてテロリストになっていく……という物語。


興行的には大失敗だったけれども、カルト映画化して現在でもパロディにされる傑作。おそらく映画史上にも残るはず。僕も、僕の友達も、映画を観た男は雄としての本能に目覚めて身体を鍛えはじめました。……もうやってないけれど。


この映画のキモは主人公の生ける屍描写と、ブラッド・ピットの男の理想を体現した肉体にあると思う。手堅い農耕的な会社勤めに飼いならされているけれども、本当は誰の心にも野獣のような魂が眠っていて、それを解放することへの羨望が切々と語られる。この物語では魂の解放は正しい、という結論に行き着いて、あの911以後では許されないテロ描写でエンディングとなる。


でも、ファイト・クラブの結成から発展までは傑作なんだけれど、テロリストとしての性格が露わになってからの展開がちょっと弱いような気がした。クラブの発展までを描く「成長葛藤」が手際良く魅力的に描かれているのに、テロ計画とタイラーの正体を巡る「破滅葛藤」が冗長で勢いが失われている。


たぶん、ブラッド・ピットが最初から魅力的すぎるんだよなぁ。タイラー・ダーデンの強烈なキャラクターが、終盤になるとさすがに出涸らしになってしまっているのも問題だと思う。というよりも、主人公が最低の位置からどんどんカッコ良くなる必要があって、かっこ悪くなるタイラーと、かっこ良くなる主人公が拮抗したときに、あのラストがあるべきだと。


映画の白眉である「これがヤンエグだ!」という説明描写はいちいち面白かった。主人公がIKEAでソファーを買ったのを、終盤でタイラーに「イケアボーイ」と揶揄されるところとか。IKEAはこの映画が公開されたころは日本に上陸していなかったので、知る人ぞ知るという感じで字幕にも「ブランドボーイ」と書かれていたけれど、この映画の公開後にどんどん認知度が上がっていった。


それと、こういう映画はやっぱり顔がすべてだなぁと思った。ブラッド・ピット以外が「男」な顔の持ち主だったり、そこそこカッコいいジャレット・レトが顔面破壊されたりと、とにかく美醜がすべてじゃないんだ、ということがよく表現できている。マーラ・シンガーも綺麗って感じではないし。


あと、この映画のホモソーシャル感も露骨で良かった。この物語って、掘るよりも殴ったほうが面白い、というものだから。