キャラクターについて(1)

【媒体による性質の違い】
まず、物語を語る媒体によって、「キャラクター」の様相が変わる、ということから説明したいと思います。

1.イラスト・マンガ・アニメ・ゲーム

これは誰がどう見ても『逆転裁判』の主人公、成歩堂龍一です。

2.実写映画・ドラマ

これは映画『逆転裁判』の主人公、成歩堂龍一ですが、変な髪型の成宮寛貴であるとも見えます。映画監督の重要な仕事の一つに、成宮寛貴成歩堂龍一が同一であると観客に飲み込ませることにあります。

3.文字情報

成歩道龍一 弁護士資格を取ったばかりの新米弁護士。どんな困難にあってもあきらめず、鋭い着眼点と意外性に富んだ逆転の発想を積み重ねながら、事件の真相に迫る。

これは『成歩道龍一』という名前と、映画『逆転裁判』のホームページにあった彼のキャラ説明の文章です。もはやこうなると、頭に思い浮かぶのは1か2のビジュアル情報の補完がなければ、これだけではイメージが思い浮かびません。


逆転裁判』の原作は1なのでキャラクターの明暗は1>2>3の順番になります。成歩道龍一本人は1の世界にいるから、1の成歩道龍一を観て、「あ、成宮君だ!」とはなりません。
しかし、実在の人物の場合、キャラクターの明暗は2>1>3の順番になります。実在の人物本人は2の世界にいるからです。キャラクターが本人から遠ければ遠いほど、本人と同一のものと観客(読み手)に飲み込ませるためには、手の込んだ説明が必要になってきます。いずれにしても、この情報だけであれば3が1や2を超えることはありません。2と1は似せることが可能ですが、3は(見た目で)似せることはできないからです。文字情報で成歩道龍一を成歩道龍一にするためには、物語を通じて成歩道龍一のキャラクターを構築する必要がありそうです。



【キャラクターとして思い浮かべるのはどの時点か?】
「悪の帝王」ダースベイダーは、スターウォーズの映画シリーズを通じて「悪の帝王」であったことは少ししかなく、息子であるルークを守って皇帝パルパティーンを倒して死ぬという、「悪の帝王」の名折れのような死に方をします。しかし、ダースベイダーといえば「悪の帝王」であり、そのイメージは強固なものがあります。それは、登場人物が一番魅力的なときにキャラクターが印象づけられるからです。つまり、キャラクターは最初からキャラクターづける必要はないということです。
一般に、登場人物が人間的に成長する場合、キャラクター性は最後に獲得します。ルーク・スカイウォーカーは最後に(ダースベイダーを殺すのを放棄したときに)真のジェダイの騎士になります。
登場人物が人間的に成長しない場合、キャラクター性を与えられた瞬間が一番魅力的であり、キャラクターが人間性を得るか捨てるかによって、物語から退場します。