『コクリコ坂から』

宮崎吾朗の監督2作目。前作のゲド戦記がみんな「これはない」と思っていた作品だっただけに、不安を抱えながら鑑賞したわけだけれど、意外や意外、かなり面白かった。宮崎駿後のジブリを模索しているジブリにとって、この作品は『借り暮らしのアリエッティ』以上の成功と言えるのではないか。

【見所】
たぶんこの映画は、「僕たちが観たいジブリ映画」という視点を強烈に意識した作品だと思う。カルチェ・ラタンの造形とか、街並みの煩雑さとか、ジブリ作品へのオマージュや敬意がこれでもかと詰め込まれた作品だ。それは、「古いものを大切にしよう」という物語のテーマの一つに結びついていると思う。作品としてもゲド戦記のようにとっちらかってなくて、ちゃんと三幕構成で観ることのできる脚本になっている。

ジブリの物語的にはアシタカ級の無敵さを誇る主人公が、なぜか好意を寄せている男の子に冷たくされて、「なんでだよ!」と悶々とするところが上手く描かれていると思う。完璧超人が、自分ではどうにもならない問題を抱えて凹むけれど、そこから這い上がるという熱い展開に宮崎吾朗の底力を観た。

あと、俊君はたぶん主人公でオナニーしたんだけれど、「お、お前オレの○○だったのかよ!」とドン引きして、ああいう態度になったのだと思う。俊君と眼鏡君の男子トイレでの会話は、つまりそういうメタファーなんだろうなぁと。

【難点】
たくさん登場人物がいるのに、彼らの見せ場が用意されていない、というのが難点と言えば難点。理事長の社長さんは主人公の身の上話の何に感化されたのか、とか、コクリコ荘の人たちの人物像が良く分からないとか、最後の船長さんは、あれは誰なの? とか。キャラクターがどういう人なのかという提示が甘い。眼鏡君も主要キャラなのに、見せ場がないんだよなぁ。あと、一々回想シーンを入れるのはちょっとどうかと思った。