『レッドクリフ』

目と目で友情を確かめあうジョン・ウー三国志を映画化するというのだから、面白くないはずがないと思って見に行ったのだけれど、(期待したほどには)面白くなかったというのが正直な感想でした。鑑賞して思ったのは、ジョン・ウーは見せ場と男の友情は描けても、戦争は描けない人だということ。鏡の反射光を使って騎馬軍団を混乱させるというアルスラーン戦記みたいな計略が出てきたかと思えば、八卦の陣という人間迷路で敵を皆殺しにするという計略が出てきたりと、頑張ってはいるけれども疑問符がつく描写がたくさんあった。ただ、諸葛孔明が単身呉に乗り込んで孫権周瑜を説得するところや、劉備軍の日常風景などは面白かった。曹操軍のサッカーにしか見えない蹴鞠はいくらなんでも「ねーよ」と思ったが。
それと、ストーリーを語るつもりがないということも気になった。おそらく「中国人だったら知ってるでしょ」的にいろんなことを端折っているのだと思う。

  • 人物伝

劉備
人呼んで中国の西田敏行。元わらじ売りの傭兵隊長は演技準拠で人徳のある人間に描かれているが、曹操に「わらじを編む程度の能力しかない」と言われた後に実際にわらじを編んでいたのには笑った。とりあえず耳たぶが長くないのが気になる。ルックスがむさいオッサンなため、孫香尚が惚れるにはちょっと無理が……と思ったら、馬と同じように失神させられていた。あと、妻が井戸に身を投げて死んだというのに、あまり気にした様子でもないし、周りも気にした様子でもない。
関羽
劉備軍の殺戮マシーン一号。序盤の長坂の戦いで曹操を殺さなかったのは、殺してしまうとそこで映画が終わってしまうからか。戦争をしていない時には、子供たち相手に先生をするという心温まる描写もある。
張飛
劉備軍の殺戮マシーン二号。橋に仁王立ちするシーンは時間の都合上割愛されたが、馬二頭を吹っ飛ばし、敵をちぎっては投げるパワーファイトは堪能できる。声もでかい。平時にはコピーライターの役割もあるらしい(僕よりよっぽど字が上手い)
趙雲
ジョン・ウーにどれだけ『三国無双』を参考にしたのか聴いてみたいと思うほど、無敵の槍捌きを見せる。青詇の剣をゲットする場面は時間の都合上割愛された。一応、将軍と呼ばれているけれども、一軍を率いるような場面がないので将軍なのかジャッキー・チェンなのかも分からないし、周瑜が守るほどの価値があったのかどうかも……
諸葛亮
金城武諸葛亮なわけないじゃん、と言いたくなるものの、三国志世界では羽扇を持っていれば誰だって諸葛亮なんだから仕方ない。琴を弾くことも出来るが、その音色はあまりに現代的じゃないかと思った。ジョン・ウー名物の鳩も飛ばせば、お産にも立ち会い、笑いもとれる。
周瑜
呉の完璧超人。『レッドクリフ』はこの人の魅力だけで映画として成立していると思う。
孫権
ドスの利いた視線が格好良い。やんちゃながらも悩み多き三代目と思いきや、劉備を失神させた孫香尚を叱責する常識も持っている。
小喬
ミステリアスで聡明で何より美人。料理も上手そうな描写が良い。妊娠しているような描写があったけれども、その後セックスするのはどうかと思った。
孫香尚
元気印な孫権の妹。劉備とのラブロマンスは美女と野獣だな〜。
魯粛
正史では周瑜を超える武闘派なのだが、演技準拠なのでコメディー役になっている。
甘興
呉の武将で元海賊……とくれば誰だって甘寧だと思うのだけれど、『レッドクリフ』では甘興というオリジナルな名前のキャラクターになっている。これは中村獅堂が甘寧を演じるにあたって、中国国内で「私の甘様を小日本の倭猿が演じるなんて!」という声が巻き起こるのを回避するためだったような気がする。でも、特別出演にしては見せ場が多いし、濃いオッサンだらけの面々の中でヤンキー系濃い顔の彼は非常に目立っていると思う。
曹操
レッドクリフ』の最大の欠点は曹操の人間的魅力が描き切れていないところにあるよな〜とつくづく思う。特に戦争の理由が小喬をゲットするためだったというのは、いくらなんでもあんまりだと思う。お前はトロイ戦争のアガメムノン王か! みたいな何か。それと80万の大軍勢を有効活用しているようにも思えないし、敗戦の報告を受けた後にサッカー観戦するというのもどうなんだろう。イメージプレイもどうかと思った。それと曹操軍って弓矢を使わないのだろうか?