『ダークナイト』(ネタバレ)

アメリカでの大絶賛の報告を見ていて「すごい映画なんだろうな〜」と思っていたら、本当にすごい映画だったのでビックリした。僕はバットマン映画が大好きで、『バットマン・ビギンズ』で始まったリアル路線に大賛成の立場をとっていたけれども、それがまあここまですごい映画になってしまうとはという感じ。スーパーヒーローが出てくる映画で「正義」とは「悪」とはを真面目に考えさせる内容になっているし、登場人物一人ひとりのモラルが試される映画になっている。
この映画の主役は誰がどう見てもジョーカーだ。本当に恐ろしい、ハンニバルレクターを10とすると100はありそうな史上最狂のサイコパスとして登場する。バットマンは精神的に一線を踏み越えた人たちが戦う物語だけれど、ここまで「狂った」存在をスクリーンで見れるとは思わなかった。敵味方を皆殺しにする銀行強盗に始まり、病院や警察署や人を爆破したり札束の山を燃やしたりとやりたい放題。ヒース・レジャーはすばらしい演技をしていると思う。
映画の構造的には「正義」「悪」「法」のトライアングルがあって、「正義」と「法」が同盟を組んで「悪」と戦おうとするけれども、「法」が「悪」に篭絡されてしまい、「正義」に牙をむく……という感じになっている。面白いと思ったのは、「正義」であるバットマンがルールに縛られ、「法」であるデントがモラルに縛られているということ。この(本来は逆であるはずの)若干ゆがんだ部分をジョーカーは突いて、バットマンとデントを、さらにはゴッサムシティを悪に染め上げようとする。終盤、モラルを捨てた「法」を司るデントは、コイントスのルールを自らに課すことによってトゥーフェイスになり、「正義」を司るバットマンは不殺のルールを破る(デントを殺す)ことで警察に追われるダークナイトになってしまう。
映画に登場するヴィランのもう一方、トゥーフェイスは残念ながらあっさりと死んでしまうけれども、これは彼に復讐鬼という性格を与えられたため仕方ないと思う。仮に生き残ったとしても、銀行強盗をするようなキャラクターではないし、「犯罪を憎む」という一点でバットマンと共闘するようなキャラでもないので。ヴィジュアル的にはオゾマシイの一言だが、短期間でスーツまでトゥーフェイス仕様になっていたのが笑えた。
バットマンについては犬に(2度も)苦戦してしまうのはどうかと思う。もうちょっと学習しろよと。
【個人的に好きなシーン】
ジョーカーがマフィアの親分たちの前に登場して、「今から手品を見せてやろう。この鉛筆を消してみせる」と言って、(あることをして)消してしまうシーン。この映画が描く「悪」が、これまでの悪からブッチギリの臨界点を振り切ったものになるということを暗示している。