『父親たちの星条旗』

クリント・イーストウッド硫黄島二部作のアメリカ側からの映画。有名な擂鉢山に星条旗を掲げた男たちの、その後の運命を描く……のだけれど、途中で涙が我慢できなかった。なんというか、説教臭い描写は一切ないのだけれども、それでも心に迫るものがある。そもそもこれは戦争をテーマにした映画ではなくて、英雄と個人(または虚像と実像)をテーマにした映画なわけだ。「優れた兵士は戦争について語らない」と最初に出てくることからも、それは明らか。
上陸作戦は『プライベートライアン』でもノルマンディー上陸作戦が描かれたが、あちらは冒頭部分だけで戦場は転々と移動する。でも、『父親たちの星条旗』は物凄く小さな島で一ヶ月の篭城作戦に出た日本軍と、物量作戦で押し捲るアメリカ軍が、双方膨大な死傷者を出しながら戦い続けるという描写が続く。硫黄島のシーンは日本軍の描写が極力省かれていて、アメリカ軍の兵士がひたすら戦死する描写が続く。反面、アメリカ国内でのシーンは大戦の最中なのに豊かな社会が描かれていて、その落差が凄かった。まあ、戦争というのは負け側と勝ち側とでは何から何まで違うわけだけれども。
見所は、上陸直後の日本軍の一斉射撃によってアメリカ人が死にまくるところ。日本軍の描写がないのでアメリカ軍が一方的にやられているようにしか見えない。実際、死傷者数で言えば、アメリカ軍は死者が7000人、負傷者が26000人で、日本軍の死傷者数2万人をはるかに上回っている(けれども、日本軍はほとんどが死んでいる。後、映画のラストも感動的だった。