『現代思想を読む事典』

今ある小説のほとんどが現代を舞台にしておきながら、現代を書ききれていないのは、「思想」の変遷を理解できていないからではないか、という意識があります。現代人にとって、思想とは何か? 僕らは思想と向き合うことは(ほとんど)ないですが、かつては思想が社会のあらゆる場所を徘徊していた時代がありました。ほんの三十年前まで、ことによると去年まで。でも、僕らは思想を「古臭いもの」「怪しいもの」として見ようとしなくなりました。思想は地下に潜り、インテリの玩具のようです。ですが、思想家は現代を語り、説明し、理解しようとしていることを、いみじくも書き手であるのなら知ろうとしなければならないのではないでしょうか。
「あたしにゃ分かりません」
結構です。初めは誰しも無知なままです。ですが、表現者は常に前を歩こうとする意思が必要なのではないか、という意味も込めて、今日は『現代思想を読む事典』を取り上げようと思います。

現代思想を読む事典 (講談社現代新書)

現代思想を読む事典 (講談社現代新書)

ここで、表紙に書かれた文章を取り上げます。

思想とは常に現代思想である。古典も時代の現実と切り結ぶ前衛であった。枠組みが消失し、実体が宙吊りされたいま、思索するための有効な言葉は何か。現代思想は何を明らかにしようとするのか。問題の所在を提示。

「資本主義」とは何か、「正義」とは何か、「制度」とは何か、「労働」とは何か。ここに取り上げられている項目は、どれもが時代を象徴した内容になっています。つまり自分が今いる世界は何か、という理解を目指しているわけです。普段見逃していたことに、重大な意図が込められていることを知ったとき、書き手が創る物語にも深みが出来てくるのではないかと思います。