『アバター』

衛星軌道上からミサイルをばらまくような戦術をとったほうが、地上戦をするよりも安上がりに星を更地にできませんか? 
という映画ではないのですが、話題のブロックバスター映画アバター』を見に行きました。監督は『銃夢』を早く作れよと言われ続ける男ジェームズ・キャメロン。主演は……サム・ワーシントン……新人さんですね。この映画を語る上で欠かせないテーマ、それは『MMORPG』です。

【ストーリー】

時は22世紀。

主人公ジェイク・サリーは、地球上での戦争で負傷して下半身不随になった元海兵隊員。彼は衛星パンドラでの作戦アバター・プログラムの参加者に選ばれる。このプログラムに参加して無事に地球に戻れば、高額の報酬とともに足も治してもらえるというものだった。ジェイクはパンドラへ向かうことを決意する。それは恐ろしげな動物や植物が共存する深いジャングルに覆われた未開の星であった。

パンドラでは、肉体的には人間よりも能力が高く、研ぎ澄まされた感覚を持つ人間そっくりの種族、ナヴィが生息していた。3メートルの身長、尻尾ときらめく青い皮膚をしたナヴィは、原始的ながらも自然と調和した暮らしを送っていた。ナヴィがテリトリーとするパンドラの森の奥には希少鉱物が埋蔵しており、それを求める人間との間で小競り合いが発生していた。

ジェイクは、この侵略に加担する一員として起用されていた。人間はパンドラの大気を呼吸できないため、人間とナヴィを組み合わせた肉体、アバターが遺伝子操作で作り出された。ナヴィそっくりに作られたアバターの体は、ドライバーとなる人間の意識と連結させることで人間がコントロールし、現実の世界でナヴィとして実際に生活することができるのである。ジェイクはアバターのボディを借りている間だけ、再び歩ける体を取り戻すことができたのだった。

パンドラのジャングル深く、スパイとして送り込まれた彼は、ナヴィの女性ネイティリと出会う。彼女は若くて美しく、そして勇敢な戦士であった。ジェイクは彼女のもとでナヴィとして生活しながら、森に住む多数のすばらしいもの、同時に危険なものに出くわす。そして息をのむほどに美しいパンドラの自然に魅せられ、それと共存することの尊さを学んでゆく。時が経過するうちにジェイクは種族の垣根を越えてナヴィに溶け込み、そしてネイティリと恋に落ちる。

その結果、ジェイクは採掘活動を進める地球の軍隊とナヴィの間で板挟みとなり、パンドラの運命を決める一大決戦で、どちらの味方につくか、決断を迫られることになる。

二時間半超えの映画にしては、中だるみすることなく見所満載でした。
とにかく舞台となる惑星パンドラの画がとてもファンタジックに描かれています。内容についてはあってなきがようなもの。「MMORPGは現実の数倍素晴らしいよね」というアレなメッセージを臆面もなく投入して、しかも大衆受けする要素で甘くコーティングしたジェームス・キャメロンの映画監督根性が素晴らしかったです。この映画、とにかくMMORPGにはまる人々の全てが描かれています。現実と幻想(映画ではナヴィの世界は実在のものだけれど)の境が分からなくなったり、現実がどうでもよくなって髭が伸び放題になったり、最終的には「現実よりもこっちの世界を選ぶぜ」と言い出したり。
ちなみに惑星パンドラの「絆」ってそのまんまサーバーネットワークのことでしょう。

【キャラクター】

ジェイク・サリー:元海兵隊で足を負傷して車いす生活を送っている。科学者だった兄の代わりとして惑星パンドラに行って、アバター計画の一員としてナヴィと生活するようになる。レベル1のプレイヤーが最終的にドラゴンナイト(劇中での名は忘れてしまった)にまで出世するのは、MMORPG的には正しい流れだと思うが、主人公の常としてキャラクターとして深みのあるような人物ではない。
グレイス:エイリアン退治の専門家がパンドラでは植物学者に。人間とナヴィの間を取り持つ役割を担っているわりに、行動に一貫性が見られないところが難点か。そもそもこの人は人間としてパンドラ(とナヴィ)をどうしたかったのかが良く分からない。良く分からない挙げ句に、現実主義者のパーカーに「葉っぱでも吸い過ぎてんのか」と笑われてしまう。とりあえずパワードスーツを着る場面がなくて良かったと思う人と、がっかりと思う人が半々だろう。
マイルズ大佐:ナウシカで言うところのトルメキア帝国の役割。とにかく脳筋という表現がピッタリ似合う。6年間も旅した挙げ句にジャングルで地上戦(と空中戦)をしかけるというのはどうなんだ。悪い人ではないと思うが、立場というものが彼を死に追いやったのだと思う。
パーカー:鉱山資源開発責任者というか植民地総督みたいな立場の人。とんでもない値段で売れる稀少鉱物が、なんでそこまでの価値があるのか示されないのが映画の欠点であるように思える(と、思ったけれど、あれって飛行石なのかなと今気付いた)。ゴルフを嗜んでいるのは、MMORPGとの対比の意味合いがあるのだろう。鉱山資源を手に入れるために森を更地にしたいのなら、超高々度からの爆撃とかすればいいのに、それをしないばっかりに敗軍の将という立場に追い込まれてしまう。
ネイティリ:ナヴィの族長の娘。映画的に(未開の部族の)族長の娘が求められている働きをしっかりとこなす。
モアト:ナヴィのウーピー・ゴールドバーグ

よく考えてみると、この映画はパンドラのことは詳しく描かれているけれども、地球のことは全く描かれていません。地球(「海兵」と言ってるからアメリカかな)がパンドラの植民地政策をどうしようとしているのか良く分からないものの、設定では強硬派と融和派の二つが拮抗している状況なのでしょう。それはパーカーが大佐に「あまり殺すな」と言っているところからも読み取れます。パーカーは立場的に非常に重要で、複雑かつ微妙な存在だが、それを生かせなかったのは残念。ただ、キャメロンはそれを意図的にしているのか、時間上やむを得ずそうなったのかは微妙なところ。DVD化されたときに「完全版」が出てきそうな感じではあります。
話の展開は非常に洗練されていたと思います。グレイスの死が、ラストのジェイク・サリーの転生に結びつくなど、伏線の張り方が上手い。