『トゥモロー・ワールド』

子供が生まれなくなって十八年が過ぎた世界で、一人の男が人類の希望を秘めた少女を守る、という内容。考えてみれば『イーオン・フラックス』も確か同じような内容だったけれども、反体制にも体制にも厳しい視線を向けているところが『トゥモローワールド』の奥深いところになっている。
世界の文明は崩壊して、イギリスだけが鎖国状態でなんとか国勢を保っている状態で、当然テロや不法入国といった問題に晒されている。凄いのはそのディストピア的風景で、実際にそういう場所で撮影したのかと思うほど。たぶんスタッフに難民の経験があったり、難民に接したりした人がいて、アドバイスをしているのだろうけれども、観るとあまりの世界観に唖然とさせられるが、野良鹿や野良羊や野良鶏などがガンガン出てくるセンスが可笑しい。
主人公の元ネタは聖クリストファロスだろうか。
「安定を求めてイギリスに渡る人々」と「不安定要素として排除しようとするイギリス」の衝突は、ある意味不可避のものとして描かれている。テロリストもイギリス軍も同じ程度に狂っていて、これでは破壊以外の何かが現れる可能性などないみたいだ。それでも、赤ん坊の泣き声に一時銃声が鳴り止んだことが、一筋の希望として描かれているのが興味深い。すぐ銃撃戦が再開されたけれど。
泣きのポイントは、やはりビルから出る場面。修羅場の状態が泣き声だけで止まるのが涙なくして観れなかった。